第6章
第120話

祭りを出て歩く2人。

七瀬「ひかる君、お母さん見つかって良かったなぁ。」
蒼「ほんとに。テントにいなかったときはもうダメかと思ったけど。」
七瀬「でも、蒼が見つけたようなもんやん?ね!お、に、い、ちゃん!」
蒼「からかうなよ、そう言う七瀬もお姉ちゃんだからな?」
七瀬「それは蒼が言っただけで、ななは自分でお姉ちゃんなんて呼んでないもんね〜!」
蒼「ちぇ。まぁ、本当よかったよ。」
七瀬「やな。・・・っ!」
蒼「七瀬?」

七瀬が道端で歩くのを止める。よくみると右足の親指と人差し指の間が下駄の紐で擦れて血が出ている。

蒼「七瀬、血出てる。もしかして、ずっと我慢してた?」
七瀬「この下駄ちょっとサイズ小さくて・・・男の子のお母さん探してるときもちょっと痛かってんけど、アドレナリン出てたんか平気やってん。」
蒼「ほんと、気づかなくてごめん。・・・ちょっとそこ座って?」

蒼はすぐそばにあったバス停の椅子に七瀬を座らせる。

蒼「七瀬、下駄脱いで、足出して。」
七瀬「え?」
蒼「いいから、はい。」
七瀬「うん・・・。」

下駄を脱ぐ七瀬。蒼は鞄から絆創膏を取り出し七瀬の足に貼る。

七瀬「絆創膏?何で持ってるん?」
蒼「この前、海で七瀬怪我した時に持ってなかったからさ。いざという時のために持つようにした。」
七瀬「そうなんや・・・。ありがとう。」
蒼「いいえ。でもこのまま歩かせるわけには行かないから、ここからは俺がおんぶして帰るよ。」
七瀬「え、ええよそんなん!我慢できる!」
蒼「我慢して傷が悪化したら困るでしょ。良いから俺におんぶされて。」
七瀬「・・・じゃあ、お願いします。」

少し休憩した後、七瀬をおんぶし歩き始める蒼。七瀬をおんぶするのは海の時を合わせてこれで2度目?だった。

七瀬「・・・なんか、なな蒼におんぶされてばっかやな。」
蒼「そう?海と今回だけじゃん。」
七瀬「クラスマッチの時お姫様抱っこしてくれたんは?」
蒼「あ・・・ほんとだ、忘れてた。」
七瀬「えー、忘れてたん?なな嬉しかったのに、ショック。」
蒼「ごめん。でも、俺もあの時は本当に焦ってたから。」
七瀬「蒼って、なながなんかあった時いつも助けてくれるよな。なな、それがほんとに嬉しい。」
蒼「まぁ、それが約束だからな。七瀬の事はいつだって助けたいし、したい事は叶えてやりたいって思ってる。」
七瀬「ありがとう、蒼。」

そう言って蒼の肩に顔をくっつける七瀬。

七瀬「・・・なぁ蒼、1つわがまま言ってもかまん?」
蒼「わがまま?んー、内容によるけど、何?」
七瀬「えっと・・・なな、今日帰りたくない。蒼ともっとおりたい。」
蒼「七瀬・・・。でも、もう遅いよ?お母さんたち心配するんじゃ」
七瀬「実は・・・。」

そう言って七瀬はケータイを取り出し、後ろからスマホの画面を蒼に見せる。
そこには、七瀬の母宛に『今日友達の家に泊まるね。』の文字。

蒼「・・・マジで?」
七瀬「うん、やから、もっとおりたい。」
蒼「でも、俺の家今日蓮加もみなみも居るよ?それでも良いなら良いけど・・・。」
七瀬「あ、そっか、どうしよ・・・あっ。」
蒼「ん?」

七瀬が前方を指さす。
蒼がその方向を見ると数十メートル先に『宿』と書かれた旅館のような建物があるのが目に映る。

蒼「これは・・・旅館?」
七瀬「たぶん・・・。ここは・・・ダメ?」
蒼「本気なの?」
七瀬「うん、本気・・・。なな、蒼ともっとおりたい・・・。」
蒼「・・・分かった。とりあえず部屋が空いてるか分かんないから、行くだけ行ってみよっか。」
七瀬「うん・・・。」

旅館の前に着き中に入る。
受付に向かうと奥から女将さんらしきお婆さんが出てきた。

「いらっしゃいませ。ご予約はされてますか?」
蒼「いえ、してないんですが・・・もう部屋って空いてたりしませんか?」
「少々お待ちください・・・。えーと、1部屋なら空いておりますけど・・・」
蒼「・・・お借りすることって出来ますか?」
「そうだねぇ・・・あなたたち見たところ学生でしょう?貸して差し上げたい気持ちは山々なんだけれど、異性の学生2人を同じ部屋にするのはちょっと・・・ね?」
蒼「そうですか・・・」

蒼が諦めようとしたその時。

七瀬「きょ、兄妹です!」
蒼「な、七瀬?」
「あら、そうなの?」
七瀬「はい、ね、お兄ちゃん?」
蒼「・・・あ、あぁ、実はそうなんです。今日は妹と2人で祭りに来た帰りで・・・。」
「あら、そうだったの!それなら1部屋でも問題ないかしらね。ごめんなさいねおばあさん早とちりしちゃって。じゃあ、お部屋の方ご案内しますので、こちらへどうぞ〜!」

こうして七瀬の嘘により、2人は1つ屋根の下で夜を共にすることになるのであった。

Haru ( 2021/11/18(木) 12:55 )