第6章
第118話


賀喜と制服デートをしたその週末。
この日蒼は七瀬と隣町の夏祭りへ行く為、浴衣を着て駅に来ていた。

浴衣で駅なんて浮くだろうと思っていた蒼だったが、どうやら結構な人が行くらしく、思っていた以上に浴衣姿が目に映る。

しばらくして七瀬の姿が見えたので手を振る蒼。七瀬は蒼に気づくと小走りで駆け寄る。

七瀬「ごめん、お待たせ!」
蒼「いや、俺もさっき来たから大丈夫。それより、七瀬走ってきたの?結構汗かいてるけど・・・」
七瀬「走ってはないけど、結構急いできたかも・・・ちょっとだけ待って・・・」
蒼「全然、ゆっくりでいいから。はい、これで汗拭きな?」
七瀬「ありがとう・・・」

七瀬にハンカチを渡す蒼。それから持っていた扇子で七瀬の顔を扇いであげる。

数分して落ち着いたのか、七瀬の顔色がだんだん戻る。

七瀬「・・・ふぅ、うん、もう大丈夫。これ、洗って返すな!」
蒼「全然良いのに。じゃあ、行こっか。」
七瀬「うん!」

10分程電車に揺られ、そこからさらに歩いて10分。目的地に到着する。

七瀬「ふぅ、やっと着いた。暑かった〜!」
蒼「電車も満員だったもんな。おつかれさん。」
七瀬「じゃあ、まわろっか。行こ、蒼!」

七瀬と屋台を回る蒼。
するとお面屋の前で七瀬が立ち止まる。

七瀬「蒼、お面つけん?」
蒼「お面か、良いね。2人でつけよっか。」
七瀬「やった!じゃあななが蒼の選ぶから、蒼はななの選んで?」
蒼「おっけー。どれが良いかな〜。」

数分吟味した後、無事お互いのお面を購入し、相手に渡す。

七瀬「ど、どうかな?かわいい?」
蒼「あ、良いじゃん、かわいいよ。俺のは?」
七瀬「蒼も似合ってる。てか、表情そっくりやで!」
蒼「え、そう?俺こんな顔してる?」
七瀬「たまにこんな顔してるで?悩んでる時とか。」
蒼「なんか恥ずかしいな・・・。」
七瀬「ふふっ、蒼かわいい。ほら、行こ、ななたこ焼き食べたい!」
蒼「よし、じゃあ食べるかー。」

その後七瀬と屋台を巡り食べ歩く。
蒼の隣でたこ焼きを頬張る七瀬。

蒼「七瀬、口にソースついてるよ。」
七瀬「・・・あ、ほんまや。ありがとう。」
蒼「いいえ。どう、美味しい?」
七瀬「うん、めっちゃ美味しい!やっぱたこ焼きは最高やなぁ。」
蒼「さすが大阪出身の七瀬はん、たこ焼きへの愛がちゃいまんな〜。」
七瀬「あー、今エセ関西弁使ったやろ〜、もぅ〜。そんなんしたらあかんで!」
蒼「ごめんごめん、なんか使いたくなっちゃって。そういえば、今日の浴衣この前と違うんだね。」

この前の水色の浴衣とは打って変わって、今日は黒の花柄の浴衣を見に纏っている七瀬。

七瀬「あ、うん、せっかくなら違うの着て行きってお母さんが言うてくれて、おさがり借りてきてん。その・・・似合ってる、かな?」
蒼「うん、すごい似合ってる。あと髪型も、その髪飾りも、浴衣に合ってると思う。」
七瀬「も、もぅ、そんな褒めんといて!恥ずかしいやん!」
蒼「えー、似合ってるか聞いてきたの七瀬なのに。」
七瀬「そうやけど、そんなストレートに言われたら照れるやん・・・。でも、ありがと。蒼も似合ってる、最高にかっこいいで?」
蒼「ありがと七瀬。」

ひと通り食べ歩いた後、射的や金魚すくいを楽しんだ2人。

今2人はかき氷を食べながら屋台の通りを歩いている。

七瀬「やっぱ祭りは楽しいなぁ。蒼と来たからかな?」
蒼「ありがと。俺も楽しいよ。」
七瀬「ふふっ、良かった。でも、ちょっと歩き疲れたから、休みたいんやけどかまへん?」
蒼「じゃあ、そこのベンチで休もっか。」

2人でベンチに腰掛ける。

七瀬「・・・ふぅ。」
蒼「もしかして、結構疲れてた?気づけなくてごめん。」
七瀬「何言ってんの、ななが連れ回してたんやから、蒼が気にすることないよ?」
蒼「まあそうかもだけどさ。なんか悔しくて。」
七瀬「相変わらず蒼は優しいな〜、さすが女誑し。」
蒼「うわ、七瀬も飛鳥みたいなこと言うんだ、なんか悲しい。」
七瀬「ごめんごめん、冗談やで?蒼の反応が面白いからからかってみただけ。」
蒼「勘弁してよ。」

そんな話をしていると、人混みの脇で5歳くらいの男の子がキョロキョロしながら歩いているのが目に入る。

七瀬「なぁ蒼、あの子ひょっとして迷子ちゃう?」
蒼「俺もそう思った。七瀬、ちょっと待っててくれる?」
七瀬「え、うん。」

そう言うと蒼は男の子に近づきしゃがみ込む。

蒼「ねぇ僕、誰か探してるの?」
男の子「お母さん、居なくなっちゃった・・・。」
蒼「どこで居なくなったか分かる?」
男の子「分かんない・・・。」

男の子は今にも泣き出しそうな顔になる。

蒼「・・・よし、じゃあ、お兄さんと一緒に探そっか!あそこに座ってるお姉さんも手伝ってくれるって!」

蒼はベンチに座る七瀬を指さす。

男の子「・・・良いの?」
蒼「もちろん!一緒にお母さん見つけよ!」
男の子「うん!」

七瀬に事情を話す蒼。七瀬も二つ返事で了承してくれた。

こうして蒼と七瀬は迷子の男の子を助ける為お母さんを探すことになるのであった。



Haru ( 2021/11/16(火) 12:58 )