第91話
傘をさし歩き出す2人。
さくらは蒼にピッタリとくっつくようにして歩いている。
蒼「大丈夫?歩きづらくない?」
さくら「はい、大丈夫です。」
さくらに合わせゆっくりと歩く蒼。
さくら「今日はあすぴーさん一緒じゃないんですね。お2人いつも一緒なのに。」
蒼「あー、あいつこの前のテストで名前書き忘れたらしくて、罰として今週1週間補習なんだよね。だから1週間は俺1人で帰るかな〜。」
さくら「そうなんですか?あすぴーさん、意外と抜けてるとこあるんですね、かわいいです。」
蒼「さくらちゃんは?テスト大丈夫だった?」
さくら「なんとか・・・でもこれがずっと続くとなると心配です・・・。あ、そういえばかっきーが言ってましたよ、蒼先輩に勉強教えてもらった〜って。」
蒼「かっきーが?そっかー、テストできたって言ってた?」
さくら「はい、結構できたって言ってました。蒼先輩のおかげだ〜って。」
蒼「そっか、良かった〜。」
さくら「いいなぁかっきー、どうして私の事呼んでくれなかったんですか〜?私も先輩と勉強したかったです・・・。」
そう言って蒼のワイシャツの袖を掴むさくら。
蒼「じゃ、じゃあ、次のテストの時一緒に勉強しよっか。それでどうかな?」
さくら「2人でですか?」
蒼「ふ、2人で。」
さくら「約束ですよ?絶対ですからね?」
蒼「うん、分かった。」
さくらは機嫌が良くなったのか隣で鼻歌を口ずさみながら歩いている。
蒼「あ、そうだ。さくらちゃんさ、夏休みなんか予定とかある?」
さくら「予定ですか?うーん、今のところはあまりないですね、仲良い友達と遊んだりはするかもですけど・・・。」
蒼「あのさ、俺ら夏休みのどこかで長野のコテージ行って泊まろうと思ってるんだけど、さくらちゃんもどうかな?良かったら仲良い子達も誘ってさ。」
さくら「え、行きたいです!あっでも、良いんですか?先輩達の邪魔になるんじゃ・・・。」
蒼「大丈夫、みんなも呼びたいって言ってたから。それに、飛鳥もえんぴー誘うって言ってたから、近々連絡来ると思うよ。・・・って先に言ったら飛鳥に怒られるな、やらかした。」
さくら「ふふ、蒼先輩もドジなとこありますね?じゃあ、ぜひ行きたいです!」
蒼「じゃあ、決定ね?詳しいことは飛鳥に聞いてくれたら、教えてくれると思うから。」
さくら「分かりました!あ、でも、どうやって行こう・・・。」
蒼「その辺は気にしなくて大丈夫。なんとかするから。」
さくら「本当ですか、よかった・・・。」
ホッ、と胸を撫で下ろすさくら。
ふとさくらが蒼の方を見ると、蒼の右肩が雨に濡れていた。
さくら「せ、先輩、肩濡れてるじゃないですか!ごめんなさい私気がつかなくて・・・。」
蒼「大丈夫、大して濡れてないから。それに、気づかれないようにしてたんだから気にしないで。」
さくら「気にしますよ!でも、どうしよう・・・あっ、これならどうですか?」
そう言って蒼の腕に自分の腕を絡ませ、ピッタリとくっつくさくら。
さくらの体温がシャツ越しに伝わる。
蒼「確かに濡れないけど・・・さくらちゃん歩きづらくない?」
さくら「大丈夫です、先輩が濡れて風邪引くよりは良いです!」
さくらはピッタリとくっついたまま蒼の隣を歩いている。ふと蒼がさくらの顔を見ると、恥ずかしいのかほんのりピンク色に染まっている。
蒼「さくらちゃん大丈夫?顔、赤いよ?」
さくら「だ、大丈夫です!気にしないでください!」
さくらは顔を見られたくないのか顔を逸らして歩き続ける。
その時、後ろから大きなトラックが走ってくるのが蒼の目に入る。
蒼「さくらちゃん、ちょっとごめん。」
さくら「え?・・・きゃっ。」
蒼はトラックが通り過ぎる直前、さくらを庇うようにトラックに背を向け壁を作る。
その瞬間、水溜りから大量の水が跳ね、蒼の背中を濡らす。
さくら「せ、先輩!大丈夫ですか!?」
蒼「俺は大丈夫。それよりさくらちゃん、濡れてない?」
さくら「先輩が守ってくれたのでなんとか・・・。ごめんなさい私車が来てるの気づかなくて・・・。」
泣きそうな顔で蒼のワイシャツをタオルで拭くさくら。
蒼はそっとさくらの頭を撫でる。
蒼「俺がしたくてしたことだから気にしないで。さくらちゃんが濡れなくて良かったよ。」
さくら「先輩・・・。」
さくらはゆっくり蒼に近づき、そして抱きつく。
突然のことに戸惑う蒼。
蒼「あの、さくらちゃん?」
さくら「先輩・・・ずっと言えなかったんですけど、私、先輩のこと好きです。出会った時から優しくて、とても素敵な先輩だなって・・・。」
蒼「さくらちゃん・・・。」
さくら「って、こんな時に言うことじゃないですよね、ごめんなさい・・・。」
蒼「ううん、嬉しいよ。ありがとう。」
そう言って蒼は再びさくらの頭を撫でる。
さくらは嬉しそうに蒼に抱きついている。
蒼がふと視線を感じさくらの後ろを見ると、家の中から男の子がこっちを見ている。
蒼「さくらちゃん、今男の子にすごい見られてる・・・。」
さくら「え・・・あっ、ご、ごめんなさい!私ったらこんなところで・・・。」
蒼「じゃ、じゃあ行こっか。雨がこれ以上強くならないうちに帰ろう。」
さくら「はい・・・。」
2人は再び歩き始める。
その後会話もなく歩き続け、数分後無事さくらの家に到着した。
さくら「あ、私の家、ここです。」
蒼「そっか、じゃあここでお別れだね。」
さくら「先輩、本当にありがとうございます。あ、もし良かったらお風呂入って行きませんか?濡れたままじゃ風邪ひきます!」
蒼「大丈夫、走ればすぐだから。ありがとうさくらちゃん。」
さくら「そうですか・・・。じゃあ、また・・・。」
蒼「うん、またね。」
そう言って去ろうとする蒼。
さくら「せ、先輩!」
さくらが蒼を呼び止める。
蒼「ん?どうしたの?」
さくら「えっと、あの・・・」
モジモジしているさくら。
蒼「なぁに、言ってごらん?」
さくら「・・・目、瞑ってください。」
蒼「目?ん、これで良い?」
さくら「えいっ!」
蒼「っ!?」
さくらが蒼にキスをする。
見えていなくても緊張しているのが分かる。
唇を離すさくら。
顔が真っ赤に染まっている。
蒼「顔、真っ赤。」
さくら「い、言わないでください。恥ずかしい・・・。」
蒼「さくらからしたのに?」
さくら「先輩、いまさくらって・・・。」
蒼「勇気出してキスしてくれたお礼。嫌だった?」
さくら「いえ、すごく嬉しいです。これからもさくらって呼んでほしいです・・・。」
蒼「分かった。じゃあ、さくら、またね?」
さくら「はい、また学校で。」
手を振るさくらに背を向け、蒼は小走りで家へと向かうのだった。