第5章
第113話

祭りの帰り道。
みんなと別れ蒼は飛鳥を背負ったまま家へと歩く。

蒼「飛鳥、流石にそろそろ降りない?」
飛鳥「えー、あとちょっとじゃん。頑張ってよ。」
蒼「その言葉、そっくりそのまま返していい?」
飛鳥「ダメ。」
蒼「はぁ、仕方ないな・・・。よっこらせ・・・と。」

ここ15分くらい飛鳥を背負っていたため、腕が疲れだんだん飛鳥がずり落ちてきていたので、蒼は再度体勢を整える。
が、偶然手が飛鳥のお尻付近にきてしまった。

飛鳥「ちょっと、どこ触ってるの。」
蒼「いや、触ってるっていうか、背負ってるんだから仕方ないだろ、我慢しろ。」
飛鳥「蒼の変態。」
蒼「酷い言いようだな、ほんとに。」

変態と言いつつも飛鳥は蒼の肩に腕を巻き付け、ピッタリとくっついている。

蒼「飛鳥、くっつきすぎて歩きづらいんだけど。」
飛鳥「良いじゃん、蒼も私とくっつけて嬉しいでしょ?」
蒼「さぁな。てか、変態にくっつく飛鳥も変態だからな。」
飛鳥「な、私は違うもん!」
蒼「何が違うんだか・・・まぁいいや。飛鳥、今日楽しかったか?」
飛鳥「え、うん、まぁ、楽しかったよ。人混みは嫌だったけどね。」
蒼「飛鳥昔から人混み嫌いだもんな。でもさ、なんだかんだ言って夏祭りは毎年行ってるよな。」
飛鳥「そりゃ、屋台出るから。」
蒼「食べ物目的かい。」
飛鳥「そういう蒼も夏祭り好きじゃん。蒼こそ何でなの?」
蒼「んー、俺も食べ物かなー。あーでも、やっぱ浴衣かなー。なんか浴衣着て祭りって、これぞ夏って感じがするじゃん?」
飛鳥「まあ、それが夏祭りだからね。」
蒼「だからさ、毎年楽しみなんだよね。飛鳥やみんながどんな浴衣で来るのかなとか。飛鳥はてっきり俺が浴衣好きなの知ってて毎回着てくれるんだと思ってたんだけど、違った?」

飛鳥の方を見る蒼。急に見られてビックリしたのか飛鳥は顔を逸らす。

飛鳥「べ、別にそんなんじゃないし。私が着たいだけだもん。」
蒼「でも飛鳥、昔浴衣嫌いって言ってたじゃん、お腹締め付けられるからって。」
飛鳥「そ、そんなの覚えてないし。」
蒼「え〜・・・まあいいや。来年も楽しみにしとこっと。」
飛鳥「・・・来年も一緒に行くの?」
蒼「まぁ、行けたら行きたいよね。飛鳥も行きたいでしょ?」
飛鳥「まぁ、そんなに蒼が行きたいなら・・・行っても良い、かな。」
蒼「素直じゃないやつ。・・・来年こそは回れると良いな、一緒に。」
飛鳥「・・・うん。約束だからね。」
蒼「飛鳥が覚えてたらなー。忘れてるだろうけど。」
飛鳥「わ、忘れないし!・・・今年回れなかったの、ちょっと悔しかったから・・・。」
蒼「ちょっと?」
飛鳥「・・・あぁもううるさい!来年は絶対回るからね!」
蒼「はいはい、分かったよ飛鳥様。」

蒼がそういうと飛鳥は蒼の背中にピッタリと顔をくっつける。
蒼がしばらく無言のまま歩いていると、後ろからスヤスヤと寝息が聞こえてくる。

蒼「飛鳥?もしかして寝てる?」
飛鳥「・・・。」

返事がない。完全に寝ていると蒼は悟った。

蒼「マジか・・・うわ、急に重くなったし、これガチだな・・・。ったく、世話のかかる幼馴染だよほんと・・・。」

眠りについた飛鳥を背負ったまま歩くこと10分。やっとの思いで家に到着した蒼。

蒼「飛鳥、起きろ。家着いたぞ。」
飛鳥「・・・。」
蒼「飛鳥ー、起きろー。家だぞー。」
飛鳥「んー・・・。」
蒼「ダメだなこりゃ。・・・仕方ない、インターホン鳴らすか。」

インターホンを鳴らすと玄関が開き飛鳥母が出てくる。

飛鳥母「あら蒼君?どうしたの・・・って飛鳥!?どうしたの!?」
蒼「あ、大丈夫です。疲れて寝ちゃっただけなので。」
飛鳥母「あ、そう・・・良かった。ごめんね蒼君、いつも迷惑かけて。」
蒼「いえ、俺も飛鳥に助けられることあるので。部屋まで連れて行っても大丈夫ですか?」
飛鳥母「頼めるかしら?ごめんねほんとに。」
蒼「いえ。ほら飛鳥、下駄脱いで。」
飛鳥「んー・・・脱がせて・・・。」
蒼「ったく・・・子供か・・・。」

飛鳥の下駄を脱がせ2階に上がる。扉を開けベッドに飛鳥をそっと降ろす。

蒼「じゃあ俺帰るからな。浴衣シワになるから、着替えとけよ。」
飛鳥「・・・。」
蒼「じゃあな、また学校で。」

そう言って部屋を出ようとする蒼の手をそっと掴む飛鳥。

飛鳥「・・・行か、ないで。」
蒼「・・・飛鳥。」
飛鳥「・・・。(寝息)」
蒼「なんだ、寝言か・・・。」

蒼は飛鳥が起きないよう、袖を掴んだその手をそっと離す。頭を撫でた後、音を立てないように部屋を出る。

階段を降りると飛鳥母が玄関先まで見送りに来た。

飛鳥母「いつもありがとうね蒼君。飛鳥、迷惑かけてないかしら?」
蒼「全然、俺も飛鳥といると楽しいので。まぁ、たまにわがままな時もありますけど、かわいいもんですよ。」
飛鳥母「あの子がずっと楽しそうなのは、蒼君のおかげだわ。これからも、飛鳥をよろしくお願いね。」
蒼「もちろんです。じゃあ、今日は帰ります。あ、飛鳥浴衣で寝ちゃってるので、ちょっとしたら着替えさせてあげてください。」
飛鳥母「ありがとう。またいつでも来ていいからね。」
蒼「はい。では、おやすみなさい。」

飛鳥母に見送られ玄関を出る。
こうして家に帰った蒼は浴衣を着替え風呂に入った後、そのまま深い眠りへと落ちるのであった。


Haru ( 2021/11/11(木) 14:55 )