第2章
第32話
蒼の声に男子生徒は気づかず去ろうとする。

蒼「おい、そこの2人、ちょっと待て。お前ら今、なんて言った。」
生徒A「はぁ・・・なんすか?あんたに関係ないですよね?」
生徒B「そうっすよ、先輩には関係ないんで、引っ込んでてもらっていいっすか?」

そう言って去ろうとする2人。
が、蒼は2人の前に回り込む。そして1人の生徒の胸ぐらを掴む。

生徒A「な、なんだよ離せよ!」
蒼「・・・確かにお前の言った通り俺は先輩だからお前たちの喧嘩には関係ないし、興味もない。」
生徒A「はぁ?だったら離s・・・」
蒼「だけどな、掛橋は俺の大切な後輩なんだよ。俺は俺の大切な人を傷つける奴はどんな奴だろうと許さない。」

生徒Bは蒼の勢いに怖気付いたのか近くで2人の様子を立ち尽くして眺めている。

生徒A「な、なんだよ偽善者ぶりやがって!先輩だからって調子に乗んな!」

男子生徒は蒼の手を振り解こうとするが全く離せない。

蒼「偽善者でも何でも構わない。お前が掛橋に謝るまで俺はこの手を離さない。」

生徒A「くそ、だれか、だれか!」

周りにいる生徒たちは男子生徒が悪いのを知っているからか、助けに来るものは1人もいない。

蒼「お前、掛橋にお前のせいでって言ったな。違うだろ。確かにあいつは転んだよ。結果的にリレーにも負けたかもしれない。でも、あいつは誰よりも真剣に練習に取り組んでたんだ。お前ら知ってるか?」
生徒A「そ、それが何だって言うんだよ!負けたら一緒だろ!」
蒼「一緒じゃない。たとえ負けたとしても、今日までほとんどサボって練習をしてこなかったお前たちに、掛橋を責める資格はない。」
生徒A「な、何でそれを。」
蒼「俺たちもずっと練習してたからな。お前ら2人が階段下で座ってサボってるのが毎日見えてたよ。」
生徒A「・・・。」
蒼「大縄跳びで引っかかってたのもお前ら2人だったよな?練習サボって周りに迷惑かけて、その上練習頑張ってきたやつを責める?お前ら、ふざけるのも大概にしろよ・・・。それから・・・。」
生徒A「もういい!俺たちが悪かったよ!分かったから離せ!」

蒼はつかんでいた胸ぐらを離す。
生徒A「・・・はぁ、はぁ。」
蒼「ほら、謝れ。口だけじゃなく、心から謝れ。」

蒼が目を離した隙にこっそりと逃げようとするもう1人の男子生徒。

白石「残念。君も言ってたよね?同罪だから。」
生徒B「な、なんだよどけy・・・。」
白石「さっさと行け。」
生徒B「は、はい!」

白石にビビり元いたところに戻ってきた男子生徒。
生徒A「・・・わ、悪かった。」
蒼「おい、ふざけてるのか?ちゃんと謝れ。」
生徒A「お前のせいにして・・・」
蒼「掛橋。」
生徒A「掛橋のせいにして、ごめんなさい。俺たちが悪かったです。」
生徒B「すみませんでした。許してください。」

よほど蒼たちが怖かったのか泣きながら掛橋に謝罪する男子生徒。

掛橋「もういいよ・・・私が転けたのも事実だし。来年また頑張ろ?」
生徒A「・・・ああ、そうだな。」
生徒B「・・・うん、そうだね。」

無事和解した後輩たち。

蒼「よし、じゃあ解決したし、片付け再開しよう。あー、あとそれと。」

男子生徒を呼び止める。
蒼「怒っていたとはいえ、つい乱暴な事をした。その・・・悪かった。」
生徒A「いえ、俺たちが間違っていたので、橘先輩は悪くないです。」
蒼「あれ、俺の名前・・・」
生徒B「そりゃ、入学式であんなスピーチしたら誰でも覚えますよ。」
蒼「そうか。まぁ、これから頑張れ。」
生徒A&B「はい!」

去っていく男子生徒の背中を見届ける。

蒼「掛橋、悪いその、つい・・・。」

掛橋は俯いたまま蒼に近づき、そのまま抱きつく。

蒼「お、おいこら掛橋。」
掛橋「蒼先輩、ありがとう、ございます・・・。」

そう言いながら泣く掛橋の背中にそっと手を置く蒼。
蒼「辛かったな。良く頑張った。」

しばらく泣いたあと、そっと顔をあげる掛橋。

掛橋「先輩、私、先輩にバカって言ったまま今日まで話せなくてごめんなさい。なんか合わせる顔なくて・・・。」
蒼「そんなこと気にしてたの?バカだなあ相変わらず。」
掛橋「またバカって言った!そうですよ私はバカです!」
蒼「いや、そう言う意味じゃなくて」
掛橋「でも、それでも良いんです。」
蒼「え?」
掛橋「だって、こんなバカな私でも、蒼先輩は見てくれてるから。」
蒼「掛橋・・・・・・みんな見てるからそういうのはやめといたほうが・・・」
掛橋「え・・・あっ!ご、こめんなさい!」

その場が笑いに包まれる。

掛橋は恥ずかしそうに片付けに戻っていく。

賀喜「橘先輩、ありがとうございました、沙耶香を助けてくれて。」
蒼「俺が腹立っただけだから。2人こそ、庇ってくれてありがとうね。」
賀喜「そんな、私たちは友達として当然のことしただけです!ねえさくちゃん!」
さくら「うん!それに、蒼先輩ヒーローみたいで・・・カッコ良かったです!」
蒼「ヒーローって・・・流石にそれは言い過ぎだよ。」
さくら「あの・・私、蒼先輩のこと・・・」
飛鳥「おい、えんぴー!その先は言わせないぞ!」
さくら「あ、あすぴーさん!?ひぇ〜ごめんなさ〜い!」

こうして最後の体育祭は無事幕を閉じるのであった。

Haru ( 2021/09/25(土) 10:32 )