第1章 
第9話

隣町のスーパーに買い物に来た蒼。
と言っても自転車で10分ほどの距離にあるので、学校に行くのとそれほど変わらない。

無事買い物を終え、帰宅する途中、道沿いに立つ大きな病院に目をやる。

蒼「相変わらずでけぇなぁ・・・。いったいいくらかかってんだよ・・・。」

そう思いながら通り過ぎようとしたそのとき、ガラス越しに見える待合室に数時間前までいた彼女の姿を見つける。

蒼「あれ・・・七瀬さん・・・?なんでこんなとこに・・・。」

蒼はいてもたってもいられず、駐輪場に自転車を停め、病院内に入る。
待合室を探すも、七瀬の姿が見当たらない。


蒼「あれ、どこ行ったんだ?」

受付の女性「診察ですか?」

蒼「いえ、ちょっと知り合いが・・・って奈々未さん!?」

奈々未「・・・もしかして蒼くん?久しぶりじゃない、何してんのこんなとこで。」

蒼「俺は知り合いがいたからちょっと気になって。奈々未さんこそ、ここで働いてたなんて。言ってくださいよ。」

奈々未「わざわざ言うようなことでもないでしょ?君の知り合いで知ってるってなったら飛鳥くらいよ。」

奈々未は年齢的に言えば蒼の5つ上の先輩で、飛鳥の従姉妹にあたる。小さい頃は飛鳥と3人でよく遊んでもらっていた。深川先生の大学時代の後輩らしく、今でもたまに会ってるのだとか。

奈々未「それで、知り合いって誰のこと?」

蒼「あ、さっきまでここに居た女の子、どこ行ったか知らない?」

奈々未「女の子・・・ああ、確か乃木高の制服着てた・・・もしかして蒼くんも乃木高?」

蒼「そうです。で、その子今日からうちのクラスに来た転校生なんですけど、スーパーから帰る途中に待ち合いにいるのが見えて。それで、どこか悪いのかなって・・・。」

奈々未「なるほど、ナンパしに来たわけではないのね。」

蒼「病院でナンパなんかしませんよ。てかした事一度もないです。」

奈々未「そうなの?まぁ蒼くん昔から紳士だったもんね。うーん、ほんとは教えるわけにはいかないんだけど、昔のよしみってことで、多分そこ曲がって一番奥のエレベーターで2階上がってすぐの診察室に行ったはず。今ならまだ間に合うかも。」

蒼「ありがとうございます。」

奈々未「今度2人でご飯でも行こっか。飛鳥抜きで。」

蒼「考えときます。それじゃ。」

奈々未「あ、ちょっと!ったくもう・・・。はぁ、次の方、どうぞー。」


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奈々未に言われた通り、エレベーターで2階に上がる。が、七瀬の姿は見当たらない。

蒼「あれ、いない・・・。もう診察室入っちゃったのかな、どうしよ・・・。」

帰ろうとしたその時、すぐそばの診察室から話し声が聞こえた。
蒼は周りに人がいないか確認し、扉の前で耳を傾ける。

七瀬「あの・・・それで結果は・・・。」

医師「西野さん、落ち着いて聞いてほしいんだが・・・腫瘍が転移している。」


Haru ( 2021/09/11(土) 10:53 )