第35話
家に着く。
とは言っても家に着いたのは僕のみで2人はコンビニへ行っている。
ぼくもついて行くよと言ったのだが、白石に真っ赤な顔で
「直樹は先帰ってて!」
と強く言われたので渋々1人寂しく帰宅したところである。
「なんで、行ったらダメだったんだろ。」
そう呟き、とりあえず湯船にお湯を張ろうと思いスイッチを押す。
2人が帰ってくるまで暇なので白石のための布団を用意する。
ちょうど布団をひきおえたとき、
「ただいまー!」
「お邪魔しまーす!」
元気そうな声が玄関から聞こえる。
こんばんは賑やかになりそうだ。
「へぇー!すごい綺麗にしてるんだなー!」
白石が整理整頓の整った我が家を眺め言う。
「お兄ちゃんきれい好きだからやってくれるんです!」
「そーなんだ!ご両親は?」
「あー、母親は俺たちが小さい時に死んじゃって親父は仕事が忙しいからさ。実質2人で暮らしてる感じなんだよね。」
「ご、ごめんなさい…余計なこと書いちゃった。」
母が死んでいることを聞き申し訳なさそうにする白石。
「大丈夫ですよ?もう昔のことだし私もお兄ちゃんも全然引きずってないですし!ね?」
「うん。気にしないで?それより、お風呂沸いたから入っていいよ?」
「やったー!白石さん一緒に入りましょ!」
「え、直樹先に入りなよ!」
「いや、僕は後でいいよ。やらなきゃいけない家事あるし。」
「そう?じゃあお言葉に甘えようかな…?」
「いぇい!いきましょー!」
コンビニで買った袋を持ち風呂場へ向かう2人。
優菜が白石の手を引いている。すっかり懐いている。
「あ、それお菓子かなにか?預かっとくよ!」
コンビニの袋を持ち風呂場へ向かうのを不自然に思い白石に声をかける。
「ば、ばかっ!ほんと鈍感!」
「へ?…」
再び顔を真っ赤にし洗面所へ入りバタンと音を立てて強く扉を閉める。
「なんで怒ってるんだろ…」
僕には不思議で仕方がなかった。
女子の風呂は長い。
だがお陰で洗い物や洗濯物の家事を全て終わらせることができた。
一息つこうと思い椅子に腰を下ろした時、風呂からの呼び出し音が鳴った。
「なんだろ…」
風呂場へ向かう
「どーしたー?」
「お兄ちゃんー白石さんの着替え持ってくるの忘れたから、私のタンスから適当に持ってきてくれない?」
風呂場の中から大きな声が聞こえる。
「わかったー。」
「ありがとうー」
優菜の部屋に行き部屋着として活用出来そうなスウェットをタンスから取り出し風呂場へと向かう。
戸を開け洗面所へ入る。
「白石さんほんとスタイルいいですよねー。」
声をかけようと思ったとき、扉の向こうから優菜の声が聞こえた。
「そんなことないよ!!優菜ちゃんも足細くて羨ましいなぁ。部活やってるとどうしても筋肉がついちゃって太くなるんだよねぇ…。」
「でも、白石さんおっぱい大きいじゃないですか!下着買う時サイズ見てびっくりしましたよ!」
「そ、そんなことないよ!あっても邪魔なだけだよ…?」
「そんなことないですよ…!私なんてすごいちっちゃいし…」
「まだ中3でしょ?これからまだまだ成長するよきっと!」
「そうだといいんですけど…」
しまった。完全にタイミングを失った。声をかけるタイミングを伺っていると会話が続く。
「それより、白石さん!お兄ちゃんとあの中で何もなかったんですかぁ…?」
「え、…?な、なかったよ?」
白石の声が上ずっているのが扉越しに聞こえる。
「あ!うそだ!わかってるんですよ!何かあったって!お兄ちゃんにも時々そのことに触れたら戸惑ってましたもん!」
「き、キスした…。」
「え、白石さんから!?」
「うん…。」
「白石さんって、お兄ちゃんのこと好きなんですか…?」
僕の鼓動が早まるのがわかる。
その返事を聞くこと自体にも罪悪感はあるが、聞きたいけど聞きたくない。まさにそんな感情だった。
「わからない…。でも、気にはなってるんだと思う…。」
残念な気持ちがなかったと言ったら嘘になる。だが、どちらかというとどちらとも取れない回答にほっと安堵した自分がいた。
「そーなんですね!お兄ちゃん多分恋愛経験ないから、すごい鈍感だと思うんですけどよろしくお願いします!」
「うん!私の方こそお世話になってばっかりで…本当に感謝しかないよ!」
「面倒見の良さが唯一の取り柄なんです!あ、それより。お兄ちゃんに体。どこまで見られたんですかー!?」
「え…。た、たぶんだけど。胸は見られたと思う…。」
その通りだ。僕は故意ではなかったが彼女の胸をしっかりと目に焼き付けてしまった。それもしっかりと。
「えー!そーなんですか!?そこまで見られてお兄ちゃんもよく何もしなかったなぁ…!」
「男の子ってやっぱりそういう感じなのかなぁ…?」
「どうなんでしょうねー。それよりお兄ちゃん遅いなぁ。」
僕が白石との関係を一瞬進めようとしたことは黙ってくれたようだ。
それよりもこの状況はまずい。
黙って聞いていたことを知られるわけにはいかない。
入るときに開けた扉をゆっくりと内側から閉め、再び開けて扉を開けた音をだす。
「も、もってきたよ!」
「あ、ありがとー!そこ置いといて!」
「おっけー」
なんとかバレることなく洗面所を抜け出すことができた。
白石の気持ちを知ってしまった罪悪感と少しの喜びを胸にリビングへ向かった。