第31話
「あったかいね…。」
「う、うん…。」
嘘だ。僕はいまとても暑い。ハグをすると落ち着く。誰かがそんなことを言っていたがそれは嘘だ。僕がいまそれを体現している。この様な状況になれていない僕の心臓はどんどん打ちつけを速めそして強くしていくばかりだった。
「ふふっ、心臓すごいよ?緊張…してるの?」
落ち着きを取り戻した白石がまた本来のように僕のことを攻撃してくる。
「そ、そりゃするよ…。だって白石だもん…」
なんでだろう。本音が次から次へと開きっぱなしの水道のように口から漏れ出す。
「や、やめてよっ!恥ずかしいじゃん…。」
「え、ごめん…」
そういうと白石の僕を包む腕がさらに強くなった。胸の感触が更に強くなる。そしてその腕の締め付けはどんどん強くなっていく。
「し、白石っ!く、苦しい!」
「あ、ごめんっ!」
そういい急いで腕を離す。僕達の体も一度完全に離れた。
しばらく沈黙が流れる。
「離れちゃうと恥ずかしいね…。」
一度離れ自分が裸だという現実に戻ったのか恥ずかしそうな声が暗闇から聞こえる。
「そ、そうだね…それよりもうそろそろなんとかして家まで帰らないと…」
そう言った次の瞬間だった。
唇に今まで感じたいことのない柔らかい感触がする。3秒ほどだっただろうか。僕にはその時間がとても長く感じた。
驚きから何も声を出せなかった。
次の瞬間また白石に抱きつかれる。
「何も言わないで…。」
また白石の柔かい胸の感触がする。いくら女性経験がない僕でも思春期の高校生男子だ。そういう欲望だってある。
理性と欲望の天秤はあと少し押してしまうだけで平衡が取れないところまで来ていた。
「だ、だめだよ…。僕だって一応男なんだよ…?」
今まで言わなかった言葉が口をついて出た。脳を経由せずそのまま口から出た。そんな感じだった。
「知ってるよ…?最初からずっと、当たってるんだよ?」
耳元で囁かれるその声に僕の天秤はふらっとぐらつきかけた。