日常
第30話
しばらくして白石から離れる。

「流石に、ずっとこうしてるわけにはいかないから…。」

少し気まずそうに言った僕。

「そうだね。ありがとう!直樹すごいあったかかったよ?」

青紫だった唇は赤みを取り戻し少し元気になった白石が笑顔で僕にそう告げる。そのたった一言が気まずさなんか押しのけて僕の心を少し揺らす。

「ふふっ、何顔赤くしてんのよ!いやらしいこと考えてたでしょー!」

バスタオル一枚ということにも、いつの間にか慣れ、自分の身を唯一隠すその布を抑えながら、こちらに振り向いていつものような調子を取り戻した白石。

「考えてない!考えてないよ!」

嘘だ。こんなに可愛い女の子と部屋で2人きり。ましてやこのような状況で全く浮かばないわけがない。

「ふーん?魅力ないのかなぁ私」

「いやっ!そんなことはないよ!すごい…み、魅力的だよ…。」

恥ずかしさから言葉を詰まらせながらも少し本音をちらつかせる僕。
一瞬、今まで寒さで蒼白だった白石の顔が赤く火照った気がした。

「あー!やっばり変な目で見てたなぁ!変態っ!」

そう言うと笑いながら僕の頭を軽く叩く。

その時、急に動いたからか軽く羽織っただけの体を隠していたその布が、ばさっと音を立て彼女の肩から落ちてしまった。

「きゃっ!」

途端にものすごいスピードで僕に背中を向ける白石。

「ごっ、ごめんっ!」

僕もそれに合わせて後ろを向く。

その時だった。

“がちゃん”

音を立てて部屋の明かりが消える。
どうやら先生の誰かが部室棟の電気を消してしまったようだ。

周りを見回してみるが真っ暗で何も見えない。視界に入るのはただただ暗闇だけだった。

「白石?大丈夫?」

何も見えない暗闇の中に僕の声だけが響く。

「う、うん…だ、大丈夫…。」

そうだ。彼女は暗いところが苦手なのだった。声が震えているのがわかる。

「白石…確か暗いところ苦手だったよね…?」

「うん…無理ぃぃ…。」

今の白石はおそらく完全に裸だ。とりあえずバスタオルを探そう。
そう思い手で周りを探ってみる。
全く見当たらない。少しづつ遠くへと移動しながら手探りを続ける。

『だめだ、視界が真っ暗じゃ見つからない。』

そう思いながら遠くへ遠くへ手探りで探していると人の肌らしきものが手にあたる。

「きゃっ!!なに!!」

白石の足に手が当たってしまった。
暗闇の中の突然な出来事に驚いたのか驚く白石。

「ご、ごめん。バスタオル探してたんだ…さすがに裸じゃまずいかなと思って。」

そう言うと今度は白石に触れないようまた手探りを始めようとした。

左手を白石に掴まれ引き止められる。

「え?」

そう呟いた次の瞬間。僕の胸に白石がいた白石の手が僕の背中に回される。

「ご、ごめんね…真っ暗なの本当に怖くて…。それと、また冷えちゃってすごい寒くて…」

寒さと恐怖からか白石の体は小刻みに震えていた。

「僕はいいんだけどさ…あ、あの白石さ、今…何も着てない…よね?」

「だめっ。考えないようにしてるんだから…言わないで…。」

耳元で囁かれる。心臓の鼓動が加速する。

「うん…」

「寒いから…背中に手、回して…?」

きっと彼女もわかっていたはずだ。なぜ僕が手を回していないのか。
もし僕が腕を背中に回すと胸が密着する。

「え、でも…」

戸惑う僕。

「手、回してくれないと私凍え死んじゃうなぁ…?」

それはずるい。耳元でそんなことを囁かれたらもう僕に拒否権は無くなってしまう。

おそるおそる手を回し彼女を抱き寄せる。

胸に柔らかい感触がしたかと思えば、僕と彼女の体によって少し押しつぶされる。そんな感覚がした。

■筆者メッセージ
こんばんは!
第28話?が拍手16となっていて驚きました!
1人の方が押しまくってくださったのか…はたまた色々な方が押してくださったのか…どちらにしろとてもありがたいです!ありがとございます!
2人はどんどん距離が縮まりますねぇ。
この小説を書く上で気をつけていることの1つに現実味と矛盾なのですが、流石にありえないだろ…と興ざめしたりしていませんか…?それだけが不安です。
ぜひコメントで感想等くださると今後に活かせるのでお待ちしております!
ちぇくの ( 2018/11/29(木) 18:21 )