02 夢やぶれて
師走の街をコロコロとキャリーバックを引く音だけが響かせている。
"とりあえず東"なんて言ってみたものの実際には何も考えちゃいない。日本中、いや喩え言葉の通じない異国の地に行ったとしても奏でる音楽はきっと伝わる。音楽は動物にだって通じる共通言語と言っても過言ではないはずだから。
先を考えれば不安がないと言えば嘘になってしまう。だけど、俺1人の分だけではなく、仲間に託された想いもあるからだろうか。不安なんかよりも期待と希望の方が遥かに大きい。
「どこに行きましょうかね」
当てもなくただ歩いている。
「―――って」
「ん?」
どこからか風に乗って聞き覚えのある変な声を聞こえる。
「ナオト〜待って〜」
「菜々!?」
後方から走ってきたのはこの世に2人といない声の持ち主だった。
「お前・・・何しとんねん?」
「ハァ・・・ハァ・・・私も一緒に行く!」
息を切らせながら大きめな鞄を持った菜々が笑顔で答えた。
「・・・・・・いやいや、一緒に行くやあらへんやん!遊びに行くんちゃうで」
「うん!わかってる」
「大学はどうすんねん?」
「辞めてきたよ」
「いやいやいやいや・・・」
どうしたものか。天を仰いでも何も浮かんでこない。
「行くって言うてもやな・・・ なんの保証もないで」
「うん!」
「先も無いかも知れんで」
「大丈夫!」
菜々は真っ直ぐな瞳で俺を見ている。
「はぁ・・・ 後悔すんなよ!」
どんな言葉にも折れそうに無いほどの強固な意志を感じる眼に俺が折れてしまった。
「私、アンタと一緒なら後悔せぇへんで」
「アホか・・・」
「ナオトほどちゃうわ」
師走の街を音を増やして歩いてゆく。
「あっ!覚えてる?」
ふいに菜々が問いかける。
「なにが?」
「中学の時にアンタが私に言うたこと」
「なんて言うたっけ」
「えー!覚えてへんのー?"お前の声は舞台上でも一番聞こえる"って言うてんで!」
「そんなん言うたかな?」
「言うたよー!」
ホントは覚えている。初めて上がった舞台で緊張していた俺に届いた菜々の応援の声と姿。それは今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。
Don't wanna lie
Don't wanna lie
生きていると感じていたい
I wanna try
I wanna try
君と共に歩いていきたい
人生を決めるmoment
それが今かもね
ふと、ある歌の一節が頭に浮かんできて笑みがこぼれた。
「なに笑てんの?」
「いや別に」
「なぁなぁ、私も楽器やろか?」
「無理やろが」
「じゃ、ボーカルやるわ」
「その面白ボイスでか?勘弁して下さいよ」
「面白くない〜」
夢やぶれて新しい夢をみる
今度はやぶれないだろう
1人ではないからきっと・・・
【完】