第四章
04 影
 工場を後にし、2人冬の寒空の下を歩く。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 2人の間には何の言葉もない。でも、咲良の時とは違いこの無言自体も苦痛に思えない。

「なぁ・・・菜々」

 思わないが、言わなければならないことはあり声を掛けた。

「・・・ん?」

「・・・・・・ごめんな」

 本来なら目を見て言うべき言葉なんだろうが、踏み出す勇気を持てなかった俺は前を向いたまま謝った。

「なんでなん?なんでナオトが謝るん?」

 菜々が不思議そうな顔で俺を覗き見た。

「この前・・・ 心配してくれたお前に酷いこと言うた」

「ちゃうやん!あれは私が勝手に」

「ちゃうことないわ・・・ ごめん」

 菜々が覗き込んだおかげなのか、ちゃんと目を見て謝ることが出来た。

「私も・・・ごめんなさい」

「・・・なんやろな?これは」

 お互いに謝罪をする光景に思わず吹き出してしまった。


「フフフ」

 再び歩き出すと菜々が俺の手を握り笑った。

「えーっと・・・バルス?」

 急に繋がれた手を照れ隠しで前に突き出して呟いた。

「・・・アホ」

「ま、こうすんのもかなり久しぶりやな・・・」

「イヤ・・・やった?」

 おそるおそる菜々が尋ねる。

 俺は返事の変わりに繋がれた手を強く握り返し、その手をポケットに入れた。


 数年ぶりの、ガキの頃と同じ様に菜々と手を繋ぎ彼女の家へと歩いてゆく。

 外灯と月明かりに照らされ地面に写る2つの影は、いつしか大きな1つの塊になっていた。



絹革音扇 ( 2014/02/12(水) 17:13 )