04 慟哭
「ユーマ!解るか!?俺や。雪村や」
まだ薬が効いているのか少しぼんやりしているユーマに声を掛け続けた。
「・・・ん、・・・・・・雪・・・村君・・・?」
「そうや!ユーマ!」
徐々に焦点が定まり始めたユーマが俺の顔を正面から見据えた。
ユーマはあの頃の面影を残しながらも年相応の精悍な顔立ちで、ハーフと言われても疑わないレベルの男前に成長していた。
「雪村君・・・なんでここに?」
声もあの頃とは違い、おおよそ高3とは思えないほどの綺麗なバリトンボイスだった。
「お前が事故ったって聞いてさ」
「・・・ちゃうでしょ」
「え?」
「ホンマは・・・オレの事を笑いに来たんでしょ?」
「な、何言うてんねん?そんな訳ないやろ」
「ウソや・・・」
低音だからこそよく響くユーマの声。
「ウソちゃうって」
「チャンピオンなる言うてたオレを笑いに来たんや」
「そんな訳あるか!それによ・・・リハビリとかしたら、また踊れるかも知れんやろ?」
「リハビリ・・・?」
「そうやって」
「そんな簡単に言うな!」
少し間を開け突然、ユーマが声を張り上げだ。
「リハビリしたら踊れる?そんな訳ない!オレの身体はオレが一番分かってるんや!今、こうやってベッドに寝てる状態でも圧倒的に身体の感覚がちゃうねん!」
ユーマが俺を睨み付け早口でまくし立てた。
「オレには・・・オレにはブレイクしかないんや!こんなんで踊れるはずない!」
右の太股を睨みながらユーマが絞る様な声を出した。
「・・・雪村君に・・・あんたに一体オレの何が分かんねん!」
「ユーマ・・・」
泣き声になり頭から布団を被り俺に背を向けた。
「もう・・・帰ってくれ」
「・・・・・・」
「帰れよ!」
「わかった・・・」
イスから重い腰を上げ、扉へと足を向けた。
「ユーマ・・・また来るわ」
振り向かずに背を向けたまんまで無言のユーマに声を掛け、扉を開けた。
「きゃっ・・・!」
ちょうど、外から開けようとしていた夕夏が小さく悲鳴を上げた。
「あれ?雪村さん今日はもう帰られるのですか?」
「・・・うん。今日はこのぐらいにしとくわ」
心の動揺を悟られないように無理して作った笑顔で夕夏とすれ違った。
「雪村さん!待って下さい」
唇を噛み、きつく拳を握りしめエレベーターを待っていると、後ろから夕夏に声を掛けられた。
「夕夏ちゃん・・・」
「ユーマが失礼な事を言って、すみませんでした」
夕夏が俺に頭を下げる。
「頭上げてや夕夏ちゃん。謝らなアカンのは俺の方や・・・」
そう、全ては俺の心ない無責任な言葉のせい。
今のユーマを思えば一番言ってはいけない、言えるはずのない言葉。
そんな事を考えているとエレベーターが到着した。
「あの・・・ また来てくれますか?」
「もちろんやよ」
閉まっていく扉の隙間から笑顔で応え、エレベーターは下へ降りてゆく。
一人となった空間、ゆっくりと壁に凭れかかった。
「ごめんな・・・・・・ユーマ」
コツっと頭をぶつけ呟いた行き場のない言葉はエレベーターの機動音にかき消された。