12 勘違い
処理しきれない悶々とした気持ちを抱えたまま家路へと就く。信号待ちで足元を転がってくる空き缶にすら、苛ついてしまい八つ当たりで踏み潰す。
ぺしゃんこになった缶にあの日の自分が思い出させられた。
(目ぇ背けてる訳やないっての!・・・・・・俺も諦めるしかなかったんや)
自分を納得させる様に言い聞かせ再び歩き出す。
「あっ!雪村!」
ふいに後ろから誰かに名前を呼ばれた。
「あぁ?・・・・・・島田か、どした?」
つい反射的に喧嘩腰に返事をしてしまい、自分の頬を一つ叩き改めて言葉を返した。
「どした?やあらへんって!今朝、警察が捜しててんで!あんた何したん?」
そうだった。オッサンのせいで変な疑いが掛かっているんだった。
「いや、あんな島田。あの人は昔からの知り合いやねん。何も警察の世話になるようなことしてへんからな」
事実をありのままに説明した。
「・・・・・・」
「なんやその目は?もしかして疑ってんのか?」
「だって、あんた・・・・・・ よう結城らと一緒に呼び出しくらってたやん」
「それ昔の話な!今はほら!かなり真っ当な大人やん?」
「・・・・・・まぁ、そこまで言うなら信じるわ」
なんとか島田に信じて貰えた。逆にここまで言わないと信じて貰えないってのも悲しい話だが。
「でもさ、それやったらオーナーにもちゃんと説明せなアカンで」
「わかってるよ。お前はオカンかよ」
歩きながら返事をした。もっとも後半は口パクだったが。
「あっ!そや島田」
ふと足を止め島田に呼びかける。
「うん?」
「こないださ、家に本忘れてたやろ?時間あんなら取りに来いよ」
「そやな・・・ ほな付いていくわ」
島田と中身の無いようなくだらない会話をしながら一緒に家へ歩いて帰る。その道すがら徐々に苛つきも収まっていくのがわかり、笑みが浮かんだ。
「なに笑ってんの?」
「いや、落ち着くなぁと思ってさ」
「なにそれ?」
「こっちの話や」
「あれ?上がらんの?」
玄関先で待っている島田に声を掛けた。
「ちょっと用事あるから」
「ふーん。はいよ」
形だけの返事をし、ちゃぶ台に置きっぱなしにしていた小説を手渡した。
「面白かったやろ?」
鞄に本をしまい島田が尋ねてきた。
「まぁまぁかな。って言うかさ、その作者ってそれだけなん?それしか知らんけど」
「あー どうやろ?私もそこまでは解らんわ」
「そっか」
「・・・じゃあね」
島田が手を振り階段へと向かっていく。
「あ!おい島田!」
「ん?」
「お前って今、付き合ってるやついてんの?」
ちょうどいい機会だと思って頼まれていた事を島田に聞いてみた。
「え!?・・・えっと、い、今はおらんよ・・・・・・ な、何で?」
「いや、別にちょっと気になっただけや。またな」
「あ・・・うん。また」
ドアを閉め、携帯を取り出し氷室に今の結果を教えるメールを打ち込んだ。
「"島田フリーってよ"っと。はい送信。・・・後はあいつ次第やな」
ちゃぶ台に携帯を置き、ベッドに寝転んだ。目線を移せば時計の針は16時を過ぎた辺りを示している。
「・・・・・・ちょっと寝るか」
22時からのバイトまでは時間もあり、一眠りする事にした。思えば昨日から一睡もしていない。
「・・・・・・あれ?さっきの聞き方はまずかったかな?」
一瞬、先ほどの慌てた様子で赤面した島田の顔が浮かび上がり思案を巡らせようとしたが、そんな事よりも眠さが勝り自ずと瞼が降りていった。