第二章
10 思い出の中の友
「ナオト?着いたぞ」

 過去を思い返していると、ショージに声を掛けられた。いつの間にか車は目的地に到着していたようだ。

「ん・・・・・・あぁ、悪い」

 正面玄関前で車を降りた俺たち2人は何度もお世話になった事のある"山本総合病院"へと入っていった。



「すいません、昨日こちらに運ばれた・・・・・・・・・」

 受付でショージが場所を聞いている間も俺は必死に加藤の事を思い出そうとしていた。なんとなくの印象は覚えていたが、肝心な顔は霞がかった様に抜け落ちていた。

「ナオト、置いてくぞ」

 ショージの後を追いエレベーターで上がっていく。



「ここやな」

 俺の前を歩いていたショージがある個室の前で足を止めた。ドア脇のネームプレートには"加藤 夕馬"と書かれている。

「はい」

 ドアの向こうからノックに対する女性の返事が聞こえた。

「入るぞ」

 ショージがドアを開け俺も続けて入った。
 病室内の様子は絵画が飾られていたり、壁紙も白ではなく落ち着いた色をしていたりと、今まで見たこともない、どこか特別な感じがした。

「お久しぶりです。結城さん、雪村さん。来て下さってありがとうございます」

 目を腫らした見覚えのある女性が俺たちに頭を下げた。

「久しぶりやな、夕夏。お前は大丈夫か?」

「夕夏・・・?」

 思い出した。加藤 夕夏。ユーマの双子の姉だ。数回しか会っていないが当時の面影はどことなく残っている。
 そして、ベットで寝ているユーマの事も。

「はい、私は」

 ショージの言葉に夕夏が小さく頷いた。

「ユーマは?」

 たまらず俺も言葉足らずになりながらも尋ねた。

「まだ、麻酔が効いていて眠っています」

「そっか・・・」

 夕夏の答えに少しだけ気持ちが楽になった気がし、改めて管に繋がれた友に目をやると、右足にあるはずの膨らみが無い事に気が付いた。

「実は・・・・・・、膝から少し下を切断したんです」

「えっ?」

 俺の目線に気付いたのか夕夏が心苦しそうに言った。

「・・・・・・悪いが、その事も含めて何があったのか聴かせて貰えるか?」

 用意されたパイプイスに座って、昨夜一体何があったのかを聞く体勢を取った。






絹革音扇 ( 2014/01/29(水) 16:35 )