01 事件
根岸のオッサンを見送った後も、客足が衰えることがなかった。
「ふぅ・・・、やっぱり土曜の夜は忙しいですね」
「酔っ払いがおらん分まだ楽な方やで。・・・ちょっと休憩もらうから、なんかあったら呼んで」
「わかりました」
夜中の2時を迎えようとする頃にようやく穏やかになり始め、先に休憩を取らせて貰った。
スタッフルームに戻り携帯を確認してみても着信はおろかメールも来ていなかった事になんとなく、不安が募り菜々の携帯に電話を掛けた。
(出ろよ・・・・・・)
電話口からは無機質な呼び出し音が鳴り響くだけで一向に出る気配はない。
諦めて電話を切ろうとした瞬間
『もしもし?』
「菜々!」
電話に出てくれた。
『ナオト?・・・・・・あっ、ごめん!服借りちゃった』
「は?お前・・・今どこにいてんの?」
いつもに増して会話が噛み合ってない気がして尋ねてみた。
『えっと・・・ナオトの家』
「うん、ごめん。順を追って説明してくれる?俺んちに忘れ物取りに帰ったんやんな?」
『それで、忘れ物見つけて帰ろうと思ったんやけど・・・』
「けどなんや?」
『思ったんやけど、なんか外も寒いし帰るのも面倒臭かったから泊まっちゃった。ごめん、服も借りた』
「それはええんやけどさ・・・謝るべきは服ちゃうやん?」
『ん〜?』
まさかわかってないのか?
「菜々ええか?黙って泊まるんは良くないぞ。せめてメール位は送ってくれな心配するやろ?」
ゆっくりと分かり易くまるで小さい子に言い聞かせる様に説明してあげた。
『あ〜、うん。そうやんな、ごめん・・・』
「・・・・・・ま、わかってくれたなら問題ないよ。・・・多分、9時ぐらいには帰れる思うけど、どうする?待っとくか?」
『う〜ん・・・・・・ ええわ、始発で帰るわ』
「そっか、鍵はポストにでも入れといてええからな」
『わかった。ナオトもバイト頑張ってな』
「あぁ、おやすみ」
真相は実に下らないものだったが、なにも無くて本当に安心している自分がいる事に驚いた。
それからは、たいした問題もなく時間が過ぎ行きバイトも終わりを告げ、朝の寒さに身を縮めながら、家路へと急いだ。
「ん・・・?鍵あらへんやん」
鍵があるはずのポストをいくら探しても中には興味のないピンク色のビラ類とかしか入っていない。
(あいつ、鍵掛けて持って帰りやがったな!)