08 自惚れの代償
「苦手とか言うてたのになんやねんな自分・・・・・・」
ボウリング場から出てきた菜々が早々にぼやいた。
「めっちゃ上手いやんか!ウソついたん?」
会計を済ませ、あとから出た俺に食って掛かってきた。
「いやいや、苦手とか一言も言うてへんやん。やるん久しぶりや言うただけで。・・・ほら」
「んん・・・・・・」
謂れのないウソつきの汚名を払拭しながらスコアが印字された用紙を渡し黙らせた。
「って言うかさ、ようそのスコアで勝負しよ言えたな」
「だって・・・、勝つ自信しかなかったんやもん」
3ゲームの合計が俺の1ゲーム分とさほど変わらない実力なのに自信があったと言ってのける自惚れっぷりに尊敬すら感じられた。俺がド下手と思われていた可能性も無きにしも非ずな訳だが。
「とりあえず、俺の勝ちって事で。菜々さんゴチです!」
少し戯けて頭を軽く下げてやった。
「い〜や〜や〜。私払いたくない〜」
「言い出しっぺは自分やろ、諦めや」
「い〜や〜や〜」
「ん。ほな、行こか」
ぐずる菜々の腕を取り歩き出した。家を出る時とは逆の光景になぜか自然と笑みが浮かんだ。
「そんなイヤなん?」
ぐずり過ぎて不機嫌となり、俺のコートを摘まんで後ろを歩く菜々に声を掛けた。
「・・・・・・・・・」
しかしながら、問いに対する返答は無く無言のまま子供みたいに頬をぷくっと膨らませただけだった。
こうなったら、何を言っても無駄に近い。昔から変わることのない菜々の悪い癖。
「・・・はぁ」
小さく息を吐き立ち止まり振り返る。
「今回だけや・・・・・俺が出しとくわ」
「・・・ホンマに!?」
「ホンマや。それにな、そんな顔されて歩かれてもしゃーないやろ」
「えー、いいの?ホンマありがとう!めっちゃ嬉しいわぁ」
その喜ぶ顔を見て、改めて自分の甘さを痛感した。こっちが相手の性格を熟知しているように、向こうもこうすれば俺が折れると言うことを知っていたはずだ。
「よう考えたら今回だけちゃうな。毎回やな」
些細なぼやきを雫し、2人並んで歩いた。