04 1日5万個
「物が少ないと綺麗に見えるやろ?誰かさんとこと違ってさ」
「うん?ま、多いのはCD位やもんな」
皮肉を言ってもピンと来てない菜々はいつも通り我が物顔でベッドに寝そべり言った。
「て言うか卵買い過ぎやぞ」
袋の中身を冷蔵庫になおしながら小言を一つ。
「あっ、聞いて聞いて!それな、安いしお一人様2パックまでやってん」
ベッドから、嬉々とした表情でずれた事を言って、こちらにやって来た。
「買うんはええよ・・・ ただな、日付は確認しよか。食い切れんでこれは」
「ん〜と・・・じゃ、いっぱい使お!」
「菜々・・・卵の栄養価なめたらあかんで・・・」
卵の栄養価は本当に高く、日に3個でも多いと言われているくらいだ。一人暮らしで食生活も乱れ切ってる俺からすればこの上なく危険な食材の一つだ。
「・・・・・・ま、なんか作るから、あっちで大人しく待っとけ」
そんな知識も無いであろう菜々を台所から追い出し何を作ろうかと思案を巡らせる。
途中、手伝いを切り出されたが丁重にお断りもした。
以前、焼餃子を作って貰ったが、どういう訳かフランベ状態になり家もろとも焼かれるところだった。そのうえ出来上がりは真っ黒で焼餃子ならぬ餃子焼きが完成していた。
それ以降、俺は菜々を台所に立たせないと心に決めている。
数分後、のんびりテレビを見ている菜々の元へ料理を持っていってやった。
「お待ちどうさん」
「オムライスやん!」
「アホほど卵あるしな」
ちゃっかり、ベッドから降り座って待つ菜々の前に皿を置く。
「ナオトはコーヒーだけなん?食べへんの?」
ちゃぶ台を挟んで座った俺の手元にあるのは一杯のコーヒーだけ。
「あんま腹減ってやんしな。それに、ご飯もそんだけやったから」
腹が減りにくくなったのも、ここに来てから。一人暮らしで得たもう一つの技能、もしくは環境に応じ体が進化したのだろう。
コーヒーを啜りながら、傍らに置いていた本に手を伸ばす。
俺の方をチラチラ見ながら食べている菜々が口を開いた。
「一口食べる?」
そう言って、スプーンに乗せたご飯の塊を俺の方へと向けてくる。
「・・・ええよ、お前の為に作ったんや。お前が食べ」
「え〜、でも一人だけ食べるん悪いやん。お願い!食べて」
「はいはい・・・」
しぶしぶ身を乗り出しスプーンに口を近付ける。
「あーん・・・・・・・・・ってウソ」
俺の口へ入る寸前で手を戻し自分で食べるというベタ中のベタな悪戯をされた。
やたらとニヤついた表情を浮かべていたから、予想はしていたが実際にされるとやはり腹が立つ。
「アホやな〜」
嬉しそうな顔で笑う菜々を無視した俺は再び本へと目を落とした。