01 記憶と電話
「待てって!」
天井に手を伸ばし、俺は叫んでいた。身体にはイヤな汗がまとわり付いている。
「なんで今さら」
自嘲気味に口元を歪まさせ、上体を起こす。
忘れたはずの数年前の出来事、思い出したくもない屈辱の光景。そんなものを今さら夢で見る自分に嫌気がさす。
付けっぱなしのテレビからは夢を謳う青臭いJ-POPが聴こえる。
「全員の夢が叶ったら世間は回らんっての」
リモコンでテレビを消し、充電器に差してある携帯を手に取った。
「はっ!?」
履歴に残るは1分おきの着信の嵐。それも、同一人物からの。
「うぉ!」
呆気に取られていると手にした携帯が踊り出す。
通算13回目の着信。
「・・・はい」
『あっ!やっと出た〜!も〜何回かけたと思ってんの?』
何故かこちらに非のある言い方をされる始末。
「あのさ、1回出ぇへんかってその1分後に出れるはずないやろ?」
さすがに頭に来て俺も正論で返す。
『う〜ん、まぁええわ。それじゃ、今から行くからお昼ご飯作ってな』
「はい?」
『何か買ってくから』
「あ、おい」
自分の言いたい事だけを伝える台風の様な電話は一方的に切られた。