12 よく知る軽い男
「・・・はい」
『チャオ〜〜〜ッス!ナオちゃん!』
のっけから面倒臭い感がぷんぷんする。
「なんか用か?ショージ」
電話の相手の名は結城 晶司。中学時代から付き合いのあるくされ縁の一人。
『用事あるから電話してんやんか・・・ナオちゃん冷たいわぁ〜 あっ!あれか?山田とのデート邪魔したから怒ってるとか?な?な?』
「そんなんちゃうわ・・・ っていうかどっかで見てんのか?」
『見〜上〜げてごらん〜ってな』
突然の歌声に釣られて見上げれば、戎橋の欄干に腰掛け、こちらに手を振るショージがいた。
「なんの用やねん」
電話を切り直接声を掛けた。
「実はさ・・・・・・」
欄干に座っていたショージが音を忘れて来たかのようにふわりと俺の横に降り立った。
「今さ流行ってる事件あるやん?」
「あぁ、あるな」
流行っているというのは不適切な表現かも知れないが頷いた。
「その犯人を俺らで捕まえたろかなって思ってんのよ」
「は・・・?」
「だからさ、俺らで犯人を捕まえんの!ナオちゃんも一緒にどう?」
"一緒にどう?"
それは、まるで遊びに行くのを誘うかの様な軽いノリで言ってきた。しかし、その内容は決して軽くはなくとてつもなく重大な事だった。
「いや、一緒にって・・・・・・」
「ええやろ?それに、あいつらもナオちゃんおった方が喜ぶ思うねん!なぁ、また昔みたいにさ〜」
あいつらってのは、中学高校時代につるんでいた奴らの事だろう。
「ほら、いっぺんナオちゃん抜けたやん。んで見捨てら・・・・・・・・・ってごめんごめん。そんな睨みなさんなって」
「・・・・・・・・・」
黙っていただけで別に睨んだつもりではなかった。
「・・・・・・ま、ナオちゃんならいつでも大歓迎やからさ!・・・・・・俺はまたパトロールに行ってくるよ〜!ほな〜」
気まずさを感じ取ったのかショージが階段を一気に駆け上がって行った。
「今のって・・・結城くんやんな?まだ遊んでんねや?」
友人の背中を目で追っていると菜々が怪訝な顔で話し掛けたきた。
「そやな・・・」
思えば昔、中学の頃までは菜々もその弟も一緒によく遊んでいた。
「・・・そろそろ帰ろか。駅まで送るわ」
「え・・・ あっ、うん」
なんとなく、昔の話題を避ける様に切り出し、駅へと歩き出した。
「・・・あ!」
地下鉄への階段付近で菜々が何かを思い出したかの様に声を上げた。
「どした?」
「ごめん!ちょっと忘れ物しちゃった!多分、ナオトの家やと思うわ」
「お前なぁ・・・」
「大丈夫大丈夫!鍵だけ貸してくれたらいいから。これからバイトなんやろ?」
「そうやけど・・・ ほれ」
ポケットから鍵を取り出して渡した。
「俺も行こか?」
「大丈夫やって!いっぺん戻ってたら間に合わんやろ?な?取って来たら鍵だけ店に持って行くから」
「う〜ん・・・・・・ 気ぃ付けろよ。もう遅いんやしな」
「ありがと!ナオトもバイト頑張りや」
そう言うと菜々は夜道を一人走っていった。
「・・・・・・」
駅から家までは30分もかからない距離だし、バイト先も家から数分の位置にある。
「ま、大丈夫か・・・」
独り言を呟きバイト先へと足を向けた。