02
自販機へと向かいながら南は一つ考えた。
(高橋があのトリックを考えたのか?でも彼女はあまり……)
考えても仕方ないことを考え煙草を購入した。
自販機から煙草を取り出し、開けようとした時、ポケットの携帯が鳴った。
(非通知?)
「はい南!」
「もしもし?」
電話の向こうからは街の喧騒が聞こえるだけで、一向に声は聞こえなかった。
「もしもし?」
『南さんのですか?』
「そうですが……あなたは?」
急に喋り出した相手に戸惑いながらも会話を続けた。
『名乗るほどの者じゃありませんよ』
「はぁ… どういったご用で?」
話している途中に遮断機が降り、南は片耳を手で塞ぎながら通話を続けた。
『…高橋さん』
「!」
『高橋みなみさんの花はいかがでしたか?』
「花?何の話だ!」
『大きな大きな美しい二輪の悪意の花ですよ』
電話の向こうで相手が小さく笑っている。
「高橋さんに何をしたんだ?」
『私は何もしてませんよ。ただ、教えて差し上げただけに過ぎません』
「…なにをだ!」
『"誰の心にも悪意のタネがありますよ"ってね。どうです?美しい花が咲き誇ったでしょう?』
南は電話の向こうからも遮断機の音が聞こえているのに気付いた。
踏切の先に目をやると、真っ白のコートを纏った人物が携帯を耳に当てているのが見えた。が、次の瞬間、電車が通過し南の視界を遮った。
『またお会いしましょう』
「おい」
電車が通過しきれば、そこには誰もいなかった。
「くそ」
遮断機が上がり南は白コートが立っていた場所へと走った。
「先輩!どこ行くんすか?」
南の後ろから車に乗った東山が声をかけた。
「ん!」
白コートがいた場所のそばに携帯が落ちていた。
暗くなりつつある夕暮れの下、携帯のディスプレイの光がチカチカと光っていた。
【完】