08
やがて高橋の肩の震えは隣に座る一ノ瀬にも伝染っていき、2人は大声で笑い出した。
「刑事さん、あんた優秀だね。やっぱ、あん時に殺しておくべきだったよ」
一通り笑った後、一ノ瀬が言い再びうつ向いた。
「はぁ… あそこまで正確に言い当てられるとはね」
高橋と一ノ瀬の言葉を南は自供と受け取った。
「高橋さん、一体なんで?」
「なんで?か…… 南さん、私たちAKBの鉄の掟って知ってます?」
南の問いに高橋が質問で返した。
「鉄の掟?」
「えぇ、誰も冒すことの赦されない鉄の掟。恋愛禁止」
高橋が立ち上がり話し始め、今度は南が彼女の話しを聞く番となった。
「でも、指原と峯岸はその掟を破った」
「だけど2人は、その後ものうのうと居座った。挙句の果てには、それをネタにテレビに出ている」
「ふざけるな!いったい何人のメンバーがその掟で辞めていったと思っている!」
「秋元先生が動かない。だったら私が代わりに粛正するしかなかったんですよ」
「AKBを護る為に…… そして、夢を追い去っていった人たちの為にも」
「島崎さんは?」
「島崎?あぁ……南さん、私たちの世界にも知らなくいい事、たとえ知ってしまっても黙ってなければならない事があるんですよ」
「島崎はそれが理解出来なかったから命を落とした。それだけです」
高橋の目は南がこれまでに見てきた犯罪者たちと同じ目をしていた。
「…間違ってるよ」
南が呟いた。
「護りたいって気持ちは解る。けど……そのやり方は間違いだよ」
「他にやり方なんか…」
「結果どうなった?」
高橋の言葉を遮り、南が尋ねた。
「君が護ろうとした結果、逆に危うい立場になったんじゃないのか?」
「………」
「他にも相談出来る、信頼出来るメンバーはいたと思うよ」
「南さん、最後に教えて下さいよ。いつ私が怪しいって気付いたか」
近付いてきた高橋が南に尋ねた。
「……最後に調書を取った時かな」
「最初?」
南の答えに高橋が目を丸くした。
「疑いが確信に変わったのは大島さんから調書を取った後だけどね」
「高橋さん、君は事件の様子をかなり克明に教えてくれたよね?でもね、普通はあそこまで憶えてないよ。自分で作らない限りは」
「……」
「君がとてつもなく記憶力のある人なら別だ。だけど、その後に質問したよね朝何を食べたかって?」
「君は答えに窮した。用意してなかった質問に君は考えたはずだ、どう答えるべきかを」
「考えても無駄なんだ、あの質問に意味なんてないからね」
「ハハハ… 最初から疑われてたんだ……」
高橋が諦めたかの様に上を見上げ両手を差し出した。