07
「東山か?何か収穫はあったか?…悪かったって………うん………うん」
開口一番。電話口から東山の非難の声が上がった。南は口だけの謝罪をし、報告を受けた。
「……やっぱりそうか……ああ…わかった…すぐ向かう。で場所は?…」
携帯を肩で挟み場所を手帳に記した。
「解ってると思うけど、俺が行くまで待機しとけよ」
手帳をしまい電話を切り、タクシーを捕まえた南は言われた場所へ向かった。
目的の場所から少し離れた位置に車を停めた東山がいた。
「悪いな、待たせたか?」
「いえ、そんなに待ってないっす」
「で、どうだった」
電話での話をもう一度、詳しく聞こうと尋ねる。
「え〜、大型複合施設"アポロ"のオーナー 一ノ瀬正造 歳は62。先輩の予想通り息子がいました。長男の和樹は現在仕事で沖縄にいるんで事件とは無関係っぽいっすね」
「問題は次男の一ノ瀬義樹 歳は25。高校卒業を機にあそこで一人暮らしを始めたみたいっす。で、その高校ってのが…」
「アポロの前身だろ?」
「知ってんすか!」
「ちょろっと聞いた」
昨日は別の事を考えていたが出身校がどうとか言っていた記憶が南にはあった。
「話聞いてどう感じた?」
「そっすね……」
「確かに先輩の言うように口調が似てるっちゃ似てるのかも知れないっすね」
「だろ」
意識して感じたのかは定かではないが、一ノ瀬義樹があの清掃員であり、ゼロである可能性がますます高くなった。
「…じゃ、行ってみるか」
「行くって… 一ノ瀬義樹の家にっすか?」
「当たり前だろ。他に誰の家に行くんだよ?」
「いやいや、さすがに駄目ですって」
「東山は裏に回れ」
東山が何か言おうとしていたが有無を言わさず指示を出し、アパートへと歩みを進めた。
一階の角部屋。表札には手書きで"一ノ瀬"とだけある。扉前に立った南は中に誰も居ないのを感じ取りおもむろにドアを叩いた。
「お〜い!義樹!居ないのか?俺だ開けてくれ」
ドアをノックし、少しだけ大きめの声で呼び掛けた。
「おい!義樹」
「うるさいね〜、一ノ瀬さんなら居ないわよ」
狙い通り隣の部屋から住人が出てきて、さらに
「どうかされましたか?」
もう1人中年男性も現れた。
「うるさくしてすみません。居ないと言いますと……。あ、申し遅れました。一ノ瀬義樹の兄でございます」
「あ、お兄さんですか?私このアパートの大家です」
大家が現れたからか気付けば隣人は部屋の中に戻っていた。
「大家さんでしたか?いや、実は弟に用があったんですが電話にも出ないし近くまで来てたので訪ねに来たんですよ」
「そうでしたか。でも最近は一ノ瀬さん見てませんね」
「そうなんですか?」
「ええ、2ヶ月ほど前に旅行に行かれて、先日帰ってからはとんと」
(2ヶ月…指原さんのストーカー被害が再開したのも…)
「あの〜、…鍵って借りれませんか?」
南は駄目元で思い切って尋ねてみた。
「う〜ん」
「駄目ですか?」
「身内なら大丈夫ですね。ちょっと待って下さい」
そう言って大家は自分の部屋へ下がり合鍵を手に戻って来て。
「本当は駄目ですけど、わざわざ来ていただいたので特別ですよ」
「すみません。すぐ返しに行きますので」
再び部屋へ戻る大家に頭を下げ、人が居なくなってのを確認して、鍵穴へ鍵を差し込みノブを回した。