08
――――時を遡ること数時間前、南たちが調書を取り終え彼女たちも次の仕事現場に到着した頃――――
「……あの」
「ん?なに?」
打ち合わせを終えて、一人でいるところを一人の少女に声をかけられた。
「さっきの事なんですけど……」
「……さっき」
声を抑えた少女の問いかけに、自然と私の目付きも鋭くなった気がした。
「ハート・エレキの収録前に一人で楽屋にいましたよね?」
「え…?」
「私、たまたま見ちゃったんですよ〜。テーブルの近くでコソコソしてるの。なにしてたんですか?」
「なに言ってんのよ。テーブルを片付けてただけだけど」
焦るな。自分にそう言い聞かせ抜け道を模索する。
「もしかして……指原さんを殺したのってまゆゆさんじゃなくてアナタだったんじゃないですか?」
「なに言って……」
目の前の少女の変わったその目はあどけないアイドルのそれではなく獲物を狙う狡猾な捕食者のものだった。
「大丈夫ですよ〜。刑事さんには言ってませんから」
「…………」
「そんなに睨まないで下さいよ〜」
無意識の内に彼女を睨み付けていたらしい。
「ふふふ」
「なに?」
ずいっと指を2本立て私の顔の前に出す。
「2千万」
「え?」
意味が解らなかった。目の前の少女は何を言っているのか。
「2千万でこの事は黙っててあげますよ」
強請っているのか?こいつが私を……
「わかったわ」
「ありがとうご…
「でも!いくらなんでも、すぐには用意出来ないわ。そうね、来週には払うわ」
目の前の女の顔が綻んだ。
「わかりました。契約成立ですね」
「ええ」
満足そうに去って行く背中を見つめながら私は呟いた。
「黙っていれば良かったものを……馬鹿な奴だな」
「……島崎」