第二章
06
「はぁ〜〜」

 捜査本部の扉前で決心の着かずにいる東山が深く溜め息を吐いた。

「……よしっ」

 何度目かの気合いと共に扉を開けた。

「失礼しま〜す」

 運良く。いや、東山からすれば運悪くちょうど静かになったタイミングで入室し全員の視線が彼に刺さった。

「ん?所轄が何の用だ?」

 さらに運悪く先程、取調室から出て行った刑事に声をかけられた。

「えっと、あの、そのですね」

「何だよ!」

 追いつめられた東山は

「い、いつも兄もお世話になってます!東山と申します。北嶺警視正少しよろしいでしょうか?」

 早くも手札から切り札を出した。

「あ?なに言ってん…
「あぁ、ここにいるとは聞いていたが君だったのか。あいつは元気にしているか?」

 北嶺がわざわざ入口まで近付き東山に話しかけた。

「えぇ多分、正月に会ったきりなので、詳しくは」

「そうか。今はまだロスだったか?」

「はい、また来年の正月には帰って来るみたいです」

 会議室に異様な光景が広がる。所轄の新人刑事と本庁の警視正が対等に話しているなんて会議室の人間は目を疑った。

「ん…、お前たちも知っているだろうが彼は東山警視正の弟だそうだ」

 その一言に座っていた刑事たちが一斉に立ち上がり東山に敬礼をした。

「や、止めて下さいよ。兄は兄ですから。……あ、そうだ」

 東山が後ろ手に持っていた写真を北嶺に渡した。

「なんだ……?」

「重要参考人 渡辺麻友さんの作ったクッキーの写真です」

「なに!?」

 東山の言葉に北嶺がすぐさま反応し部下に指示しスクリーンに映した。

「流石はあいつの弟だな」

「あ、いや……。これは僕じゃなくて先輩が……」

 バカ正直に答える東山に北嶺が肩を叩いた。

「なるほど……助かったぞ。もう一度事件を洗いなおす」

『はい!』

 一瞬だけ笑みを浮かべた後、真剣な顔で号令を発した北嶺に場違い感を感じた東山は敬礼をし慌てて会議室を後にした。






絹革音扇 ( 2013/11/23(土) 18:05 )