第二章
05
 渡辺が差し出した携帯の画面には彼女と彼女が焼いたクッキーの写真が写っていた。

「わっ!すごい可愛いし美味しそう。ね、先輩!……すいません」

 南と一緒に画像を見ていた東山が間抜け面で見当違いの感想を述べ、同意を求めたが、南は冷ややかな視線を送るだけで返事はしなかった。

「……ん?渡辺さん、これクッキーだけの写真ってある?」

 画像を見ていた南が"ナニか"に気づき渡辺に携帯を返し問いかけた。

「え?あ、はい。えっと……これです」

 南から受け取った携帯を操作し別の写真を出した。

「ホントに売り物みたいだね」

「渡辺さん、ちょっと携帯貸してもらえるかな?」

「……はい」

「ありがとね。東山!この写真をプリントアウトして本部に持ってけ」

 未だに的はずれな感想しか言わない東山を無視しつつも、渡辺の携帯を渡し指示を出した。

「ぼ、僕が本部にですか?いや、無理ですって!そんなの!」

「大丈夫だって!北嶺さんに見せればいい!あの人ならそれで理解してくれっから」

 しり込みする東山の肩を軽く叩き外に出した。

「大丈夫だよ。すぐに返すからさ。それに、君の無実も証明出来ると思うから。もう少しだけここにいてね」

 不安げな顔をする渡辺をフォローし南も部屋を後にした。



「先輩、これでいいっすか?」

 東山が印刷した写真を南に見せた。

「うん。上出来!……他に見たりしてないだろうな?」

「そんな余裕ないっすよ。本部に行くってだけで吐きそうなんすから。やっぱり一緒に来て下さいよ」

 東山から彼女の携帯を受け取り、一応確認を取った。

「子供みたいなこと言うなって。それに、お前には"切り札"あんだろ?」

「そうっすけど……」

「何してるんだい?」

 印刷した写真をコピー機にかけながらぐずる東山を説得していると猪瀬がやって来た。

「はい、いってらっしゃ〜い。課長これ見てください」

 東山の背中を押しながら、課長にも写真を見せた。

「ん〜、美味しそうなクッキーだね。……事件のクッキーかい?」

 東山と似た反応をするも、すぐに見せた意味に気付き真剣な表情になる。

「ほほ〜、これはこれは」

 猪瀬の声に蝶野も反応し写真を見つめ、髭を触りながら唸った。

「渡辺さんを部屋から出しますね」

「応接室へ案内しなさい」




その一枚の写真から事件が大きく動いていった……






絹革音扇 ( 2013/11/22(金) 22:34 )