01
「ただいま戻りました〜」
千代田署に戻って来た南たち一行を待っていたのは殺人事件が起きたと言うのにいつもと変わらぬ雰囲気の刑事課。
「お疲れさん。現場はどうだった?」
デスクでお茶を啜りながら課長の猪瀬が声を上げる。
「課長〜、どうもこうもありませんって。詳しい事は何にも聞かされてないんですから」
「ま、そりゃそうだわな」
ソファに座り将棋を指している男が横から声をかけた。
「チョウさん!と署長…、お疲れ様です」
そこにいたのは、署長の鹿村とベテランのチョウさんこと蝶野だった。
「別に疲れちゃいねぇよっと。はい、王手ね」
「ちょ、ちょっと待ってよ。チョウさん〜」
「勝負の世界に待ったはないんだよ。今晩は署長さんの奢りね」
和気藹々とした2人様子を見ていた西尾が口を開いた。
「いいんですか〜?本庁の皆さんが来てるのに賭博なんかしてて。査問委員会に……」
「……あ!そうそう南君、後でいいから捜査本部に行ってきなさいよ。呼ばれてるからね」
話を逸らすかの様に慌てて署長が南に話を振った。
「本部?俺がですか?」
「南よ〜、お前さんまた何かやらかしたのか?」
蝶野がニヤニヤしながら南の肩に手を回した。
「ちょっと、またって止めて下さいよ!またって!今回はまだ何もしてませんって」
蝶野の腕を退かし、言われのない冷やかしに反論した。
「判ってますって先輩。とりあえず、行きましょう。捜査本部に。ね!行きましょう。」
半ば東山に引き摺られる形で刑事課を後にした南。
「そうだ先輩、蝶野さんっていつ仕事してんすかね?」
ふいに東山はいつも懐いていた疑問を南にぶつけてみた。
「チョウさんか?」
「えぇ…。だっていつ見てもお茶飲んでるか将棋指してますよね?」
「…そっか。お前は知らなかったか」
「何の事っすか?」
まだ配属されて日の浅い東山は知らない。蝶野の凄さや逸話を。
「チョウさんはな、いつもはポケーッとしてるけど外に出たら、ひったくりやら空き巣を捕まえて帰って来るんだよな。しかも、毎回確実にな」
その正確さからか、署内では"チョウさんが動けば事件が起こった証拠"とまで言われている。
「へぇ〜それは凄いっすね。でも…、そろそろ定年なんじゃないっすか?」
「あぁ。かもな…」
そう、蝶野の年齢は誰も知らない。署長の先輩とか噂されているが、結局のところ何歳なのか正しい年齢は誰一人として知る者はいない。
「……ここっすね」
そんな下らない話をしている内に捜査会議中の本部に辿り着いた。
「……じゃ、開けますね」
異様な空気に包まれた本部への扉が開かれた。