07
高橋のその一言は東山にとっては、まるで神の啓示のように思えた。
「マジっすか!?やった!……ちなみに、サインとかして貰えたりしませんかね?」
「東山……、あくまで借りるだけだ。諦めてそろそろ切り替えろよ」
未だファン心の抜け切らない東山を諫めると、それこそ子供の様にしゅんとなり「はい」と小声で返事をした。
「…あっ、先輩さっき調書は終わったって言ってましたけど…、もう全員分終わらしたんですか?」
「全員?彼女の分だけだけど。他にもいるのかな?」
いきなり仕事モードに切り替わった東山からの指摘を、すかさず高橋に尋ねた。
「はい。今日は年末の特番収録だったので…グループ総勢200人位は来てます。」
「に、200人!?そんなにいるの?」
多いとは聞かされていたが精々100人程度だと思っていた西尾は驚き、南も呆気に取られていた。
「だから言ったっしょ?姉妹グループもいるって」
「名古屋と大阪と……後は九州だっけ?」
「そうっすけど……、ざっくり過ぎっすよ先輩。そして、それを束ねるのが、ここにいる総監督のたかみななんすよ!」
片膝を着き彼女に向かって両手をヒラヒラさせる。
彼女は彼女でその仰々しい紹介に苦笑いを浮かべていた。
「という事で、僕も調書手伝いますね〜」
「…あっ!でも、最初に来た刑事さんがその場にいたメンバー以外を帰らせたのでそんなに多くないです」
「それって、何人ぐらい残ってるのかな?」
「えっと……あと13人です」
「そっか、ありがとう」
南はその言葉にほっと胸を撫で下ろした。200もの人数の調書はいくらなんでも無理がある… 13人なら夕方までには終われるだろう。
「だったら、早く他のメンバーの調書も取りましょう。貴女は別室で待機してくれるかしら?」
「あっ、一つだけいいかな?」
西尾に促され部屋を出ようとする高橋に南が声をかけた。
「はい?」
「今朝って何を食べたかな?」
「え……?今朝ですか?……えっと、その……、今朝はパンと…サラダです」
「そっかそっか、ありがとう。ちょっとアイドルが何を食べるのか知りたくてさ。西尾さん、連れていってあげて」
意図のわからない質問に不思議そうな顔をする2人とは対称的に、西尾が意味ありげな微笑を浮かべていた。
「とりあえず、東山はこれ片しとけよ」
テーブルを指しつつ、一つ伸びをし、気合いを入れ直した。