第一章
07
 高橋のその一言は東山にとっては、まるで神の啓示のように思えた。

「マジっすか!?やった!……ちなみに、サインとかして貰えたりしませんかね?」

「東山……、あくまで借りるだけだ。諦めてそろそろ切り替えろよ」

 未だファン心の抜け切らない東山を諫めると、それこそ子供の様にしゅんとなり「はい」と小声で返事をした。

「…あっ、先輩さっき調書は終わったって言ってましたけど…、もう全員分終わらしたんですか?」

「全員?彼女の分だけだけど。他にもいるのかな?」

 いきなり仕事モードに切り替わった東山からの指摘を、すかさず高橋に尋ねた。

「はい。今日は年末の特番収録だったので…グループ総勢200人位は来てます。」

「に、200人!?そんなにいるの?」

 多いとは聞かされていたが精々100人程度だと思っていた西尾は驚き、南も呆気に取られていた。

「だから言ったっしょ?姉妹グループもいるって」

「名古屋と大阪と……後は九州だっけ?」

「そうっすけど……、ざっくり過ぎっすよ先輩。そして、それを束ねるのが、ここにいる総監督のたかみななんすよ!」

 片膝を着き彼女に向かって両手をヒラヒラさせる。
彼女は彼女でその仰々しい紹介に苦笑いを浮かべていた。

「という事で、僕も調書手伝いますね〜」

「…あっ!でも、最初に来た刑事さんがその場にいたメンバー以外を帰らせたのでそんなに多くないです」

「それって、何人ぐらい残ってるのかな?」

「えっと……あと13人です」 
「そっか、ありがとう」

 南はその言葉にほっと胸を撫で下ろした。200もの人数の調書はいくらなんでも無理がある… 13人なら夕方までには終われるだろう。

「だったら、早く他のメンバーの調書も取りましょう。貴女は別室で待機してくれるかしら?」


「あっ、一つだけいいかな?」

 西尾に促され部屋を出ようとする高橋に南が声をかけた。

「はい?」

「今朝って何を食べたかな?」

「え……?今朝ですか?……えっと、その……、今朝はパンと…サラダです」

「そっかそっか、ありがとう。ちょっとアイドルが何を食べるのか知りたくてさ。西尾さん、連れていってあげて」

 意図のわからない質問に不思議そうな顔をする2人とは対称的に、西尾が意味ありげな微笑を浮かべていた。


「とりあえず、東山はこれ片しとけよ」

 テーブルを指しつつ、一つ伸びをし、気合いを入れ直した。




■筆者メッセージ
話が少し冗長し過ぎですよね……

スピーディーな展開になるよう精進します。
絹革音扇 ( 2013/11/11(月) 22:27 )