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あっけなく授業は成立しなくなって学級崩壊に近い状態になった。ちょうどよく授業終わりのチャイムが鳴り、担任はそそくさと「お前らふざけるのも大概にしとけよ!」なんて捨て台詞を吐いて職員室へと戻っていった。クラス全体が担任を共通の敵と認識した瞬間だった。
受験が近いこともあり、他の授業はみんな真面目に受け、担任の時だけ話を聞かないという状態が続いた。集団での無視。明らかに“いじめ”と言える状態だった。しかし、これも必要な犠牲。そう自分に言い聞かせた。
結局、担任とはそのままに卒業を迎えた。途中から別の先生が担任として3年2組にやってきた。けど、元の担任は授業を持ち続けていたからいじめは続いた。そのおかげかクラス内でのいじめはなくなった。感謝するべきなのかもしれない。
「ねぇ、菊野君?」
「どうかした?理々杏」
私たちは卒業して、高校も別々になって、ここから遠い場所へ行くことが決まっていた。だから…。
「ありがとね、菊野君」
なにとは言わなかったが、伝わったようだった。
「別に何もしてないよ。理々杏が頑張っただけでしょ?」
微笑む彼に胸がキュッと締め付けられるような心地よい痛み。経験としてはまだ知らなかったそれを知識として私は知っている。
「ねぇ、菊野君。高校は別々で僕は遠くに行っちゃうけどさ…」
言うか言うまいか迷った。確実に離れ離れになるのは決まっている事実。それでも、この私の気持ちを伝えておきたかった。
彼は何かを言うでもなく私の次の言葉を待っていた。
「…僕がついてるよ。ずっと一緒だから。これは約束。僕が助けてもらった代わりになるかわからないけれど、菊野君に何かあっても僕は菊野君の味方だし、僕がついているから。」
彼は驚いた眼をしていたが、次第に柔らかい笑みに変わった。
「うん、ありがとう理々杏。」
そう言って彼はまたあのどこか遠くを見つめて、ここじゃないどこかに思いを馳せていた。その顔はどこか悲しげだった。
彼は何かを背負っている。そう私は悟った。けど私は決めたから。彼がたとえどんな大罪人でも、私は菊野君の味方。彼がもし地獄に堕ちるのなら私も一緒に堕ちる。彼が世界を敵に回しても私は彼についていく。それが私なりの彼への恩返し。
これが私の彼を想う感情に対しての答え。具体的に何かを伝えられなくても、彼にもし想い人ができても、私はずっと彼を想い、追い続ける。そう決めたから。