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次の日から私は学校に行った。久々に戻ってもいじめは続いていた。私が標的ではなく、私と仲の良かった男の子が標的になっていたが。
変わらない。私が学校に行かなくなっても何も変わっていない。クラスのみんなも、クラスの雰囲気も、いじめの仕方も、いじめられる男の子も、いじめている仲の良かった子たちも。
そして、いじめを認識しているであろう、規範にうるさい今年からの担任も。何もかもがそのままだった。
「先生」
「どうした、伊藤」
担任の担当教科である数学の時に私は動いた。これが始まり。
「先生の目指すクラス像って何ですか?」
「いまそんなこと関係ないだろう。あとにしろ、続けるぞー」
そう言って書きかけの証明に向き直った担任の背中に言い放つ。
「“そんなこと“ですか?ほかの先生と比べて随分と冷たいんですね。」
安い挑発。でも、担任の性格上必ず挑発に乗ってくる。
「そんなわけないだろう!!先生がどれだけ苦労してここまでお前らを育ててきたと思ってるんだ!お前らのためを思って頑張ってやってきてんだよ!お前にわかるか?この苦労が伊藤?」
声を荒げて挑発に乗った担任。もう少し。
「僕たちのため、ですか?じゃ、そのためには何をすればいいんですか?」
「そんなの4月に話をしただろう?『3年2組は誰に対しても公平でみんな同じ』だって。それをお前らに求めているから、先生はこのクラスだろうが他のクラスだろうが分け隔てなく接してきた。お前らもそう感じるだろう?」
教室の後ろで椅子がガタッと鳴った。そちらを見ると、クラスの中心にいる少しやんちゃな男の子だった。
「嘘つくなよ。あからさまに俺ら男子に怒るときと女子に怒るときとで違うだろ!普段からも温度差ありすぎだっつーの」
始まった。菊野君が言ったとおりだった。案外簡単であっけなかった。
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「簡単さ。」
「何をすればいいの?」
「共通の敵をつくる。それも、クラス全員が敵だと認識できる共通のね。理々杏の担任とか、かな」
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最初はあまり気が進まなかった。けれど、今のクラスの状態をおかしくしたのは間違いなく担任だ。
授業なんてもうなかった。みんなは口々に文句を言ったりして担任の手には負えなくなっていった。