C
「何か用?菊野君」
少し間があった。
「理々杏、学校行きづらい?」
「あんなとこ、もう絶対に行かない。仲良しだと思ってた子も加担して。そんなにみんな僕のこと嫌いだったんなら最初から言ってくれればよかったのに!」
別のクラスの菊野君は全く関係ないのに黙って私の話、もとい、八つ当たりを聞いてくれていた。ただただ、私が菊野君に八つ当たりしているだけ。そんな状況をふと俯瞰で見るとなんだか、情けなくなって、惨めで。気づけば目の前が透明なままに滲んでいた。
今にも生きることをやめたくなった。
今までたまってたこと、ひととおり吐き出した。
「少しは落ち着いた?」
「うん、菊野君ありがとう。でも、なんかごめんね?私が一方的に話すだけで。」
「いいんだよ別に。自分の中にため込んでしまっていたら、きっとそれは大きな過ちを犯すことに繋がってしまうから…。」
「え、どういうこと?」
「いや、何でもないよ忘れて?」
そう言う菊野君の目はどこか遠くを見つめていて、ここじゃないどこかを見ているようだった。そんな菊野君の目が忘れられない。
それから菊野君は毎日のように私の部屋に来てくれた。私を学校に行かせようと説得するわけでもなく、ただの世間話をしてまた戻っていく。そんな日々が続いた。
「ねぇ、菊野君。なんで僕が標的になっちゃったんだろうね」
菊野君は少し考えるそぶりをした。
「仲間意識、かな…。」
「どういうこと?」
要するに思春期という多感な時期では、過剰な“仲間意識”が関係するのだという。3年2組は2年生からの持ちあがりのクラス。去年はみんな仲良く、体育祭などの行事で団結して一緒に優勝を勝ち取ったりもした。
けれど、受験を控える今年になってから担任も変わった。指導や説教が多くなり、規範という概念が過剰になっていった。それが多様性や違いを認めにくい、排他的なクラスになってしまった。
もともとのクラスの結束力が強いせいで、いじめがエスカレートするのも早かったのかもしれない。そういう話だった。
「確かに、今年になってから息苦しい感じはあったけど受験もあるし仕方ないかって思ってた」
「まぁ、あくまでも予想に近い仮説だけどね」
素直に菊野君を尊敬した。歳は変わらないはずなのにそのどこからか漂う人生を達観している感じ。人生経験が圧倒的に違う感じ。
「どうしたらあの場所に戻れると思う?本当はあのクラスのみんなが好きだから」
そんな菊野君だから、きっと私の問いにも答えをくれるはず。
「簡単さ。」