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“僕”が母親を亡くして、身寄りがなくなって入った孤児院。そのせいで”僕”の生活は一変した。豊かな生活ではなかったが、母親と二人で満ち足りた幸せな生活だったと思う。
母親が心臓の病気を患い、そのまま入院してしまった。その病気の発見からわずか1か月で母親の心臓は動きを止めてしまった。深い悲しみに打ちひしがれた。何の心の準備もできなかった。
何のやる気もでなかった。
一日をただ無駄に過ごしていた。
ベッドの上でただ何もせずに過ごすことだけで一日は終わってしまっていた。
母親と過ごしていた穏やかな生活。しみじみと幸せだったなと感じるだけで、今の”僕”の状況を勝手に対比してしまっていた。
そんな心を病んでしまった”僕”は治療とカウンセリングを受けながら少しずつ普段の生活に戻っていった。
そして孤児院の生活にも慣れてきたころ。”僕”の生活をさらに一変させた出来事があった。
両親を何者かに殺されて奇跡的に一人だけ助かり、身寄りがなくなってしまったという同い年の少年だった。
“僕”以上に大変な状況でここに入ってきた。そんな彼に同情するわけではなかったが”僕”よりも明らかに心に負っているダメージは計り知れないほど大きいはず。なんせ、一度に両親を亡くしてしまっているわけだ。しかも、殺されて。どうしようもないやるせなさを感じているはずだ。
そう思っていた。
けれど、実際の彼はそんな悲しみを全く表には出さずにいた。悲劇のヒロインを演じるかのようにいてもおかしくはないのに、淡々と日々を暮らしていた。
その強靭な精神力に驚いた。だから”僕”は彼になんとなく惹かれた。純粋に興味から。ただ、当時小学生の”僕”がそんなふうに思っていたというのは考えづらいから、直感的なものだったのだと思う。”僕”にはないその強さに。