第11花ーブーゲンビリア
彼が後輩の女の子、蘭世ちゃんに呼び止められて私は結局一人で講義の教室に向かうことになった。いつ彼が来てもいいように隣の席に私のバッグを置いて彼の席を確保した。講義のレジュメだって彼の分も受け取って彼が来るのを待っていた。講義が始まって10分、20分…。刻々と時間だけが過ぎていった。
結局、その講義が終わっても彼は姿を現さなかった。
とりあえず私は彼にLINEを送る。
『5限結局来なかったね…
何かあった?』
彼から返事が来るのはいつも遅い。
『講義のレジュメもらってあるから明日渡すね!』
あくまでも後に送ったメッセージが本題であるかのように立て続けに送った。でも、私が本当に気になるのはあの後輩の女の子、蘭世ちゃんのことだった。
今まで彼は女の子と深い関わりを持とうとしている節は見当たらなかった。せいぜい、梅澤先輩とバイト先が同じで、よく先輩の家で飲んでいるというのを聞いたくらいだ。
合コンというものに参加したという話は聞かないし、サークルにいる女は私だけ。
なのに、彼はどうしてあの子に呼び止められてそのまま講義をサボったのか。あの子に彼を惹きつける何かがあるのだろうか?わからなかった。
ピロンとスマホがLINEの通知音を鳴らす。
『なんともないよ』
『レジュメ、ありがと』
思ったよりも返事が早かった。
『ならよかった!
また明日ねおやすみ!zzz』
なんとなく彼がこの話題を避けているような気がした。だから私はさっさと彼とのLINEを切り上げた。
もっとあの子のことを知らなくてはいけない。そんな気がした。
明日の朝は1限からだし早く寝なきゃ。洗濯は…明日でいっか。頭の中でひとりごとをつぶやきながら私は頭から布団をかぶった。
ピロンと控えめにまたスマホが鳴った。けど、私はベッドから出るのが億劫でそのまま夢の世界へと落ちていった。