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目が覚めると、そこは見慣れない空間だった。清潔なシーツと布団。窓からは日の光が差していた。
窓の外の青空を眺めていた。背中はズキズキと痛んだが、生きているということ、自由になったということを自覚できる痛みだった。絶対に忘れられない痛みになるのだろう。確かに痛かったけど、それに勝るほどの喜びがあった。
今こうして生きている。つまり、あの時の計画はうまくいったということだ。
ひとつ息を吐いて自分の手を眺めた。自由を手に入れるためとはいえ、自分の手は血に塗れてしまったのである。心の持ちようではあるが、普通の人と同じように暮らしていけないのだろうなと一種の諦めのようなものを少しだけ感じていた。
後から聞けば、警察が到着した時、俺は生死をさまよっていた状態だったらしい。ただ、こうして生きているのだから何も問題はない。しっかりと自らの手で自由を勝ち取った。
結局、俺の計画通り怨恨の線で捜査が進められた。しかし、その先に犯人がいないのは俺が一番知っている。俺も刑事さんから事件の時の様子や犯人について聞かれたが、「わからない」の一点張りで通した。
結局犯人が見つかるわけでもなくただ時間だけが過ぎていった。当たり前だ。
俺の背中の傷も癒えて晴れて病院を退院した。両親がいなくなって身寄りのなくなった俺は、施設に預けられることになった。施設に預けられてからは普通に過ごし、成長して中学、高校を卒業して今に至る。
本来なら、幼少期に親から受ける愛情を知らずにここまで生きてきてしまった。周りの奴らは幸せな家庭で育ってきたんだろうなと思うと純粋にうらやましく感じてしまう。俺も普通の家庭に生まれて、普通の親のもとで愛情を注がれて育ちたかった。
そんなことを考えながら過ごしていると一つの疑問にぶつかった。
「愛」とは一体何なのか。
自由を得ても、何も変化を感じられず、意味もなく生きるくらいなら…と考えたこともあったが、この疑問が解決するまでは死ねない。そう思った。