名もなき花の物語 - Take my mind off
A
小学校にあがると、俺の知っている世界は激変した。俺の知っている当たり前は当たり前ではなかった。


リサイクルショップで買ってきたらしい紺色のランドセルはところどころ色が落ち、傷も多々あった。それを背負って学校へ行くと、周りはみな新品を背負っているのに俺だけ傷だらけの中古品。そして幼い周りの“ともだち”の容赦ない言葉は悪気がなくても、言われた者の心を抉る。


「ねーねー、なんではるきくんのランドセルだけぼろぼろなの?」
「ほんとだー!ねーねーなんで?」
「ぼくたちみんなカッコいいもようがあるのになんではるきのだけないんだ?」


幼いながらもみじめという感情を知った。俺は今でも覚えている。家に帰ると珍しく1人で母親がテレビを見ていた。俺は純粋に疑問に思ったことを尋ねた。
 
「どうしてぼくのランドセルだけぴかぴかじゃないの?」

そう聞いた俺への返事は拳と蹴りだった。訳が分からなかった。純粋な疑問を尋ねただけ。なのにその返答はなく、やってくるのは拳と蹴りだけ。親には何も聞かないようにしよう、何も疑問に思ってはいけない、そう学習した。今思えば明らかに誤学習なのではあるが。


しかし、そんな決心は何の意味もなかった。ランドセルの一件以来、母親から日常的な“しつけ”と称される暴力が始まった。俺が何かしたわけでも、言ったわけでもなく急に物が飛んできたり、蹴りが入る。耐え難い苦痛だった。抵抗すれば倍以上になって返ってくる。それを知った後はただ無抵抗に、母親のサンドバッグとなり果てた。泣くこともせず、体中に痣を作った。

そんなことがあって俺はついに学校へ行く気力も起きなくなり、母親の“しつけ”が怖くて家事を黙々とこなすロボットになった。小学2年の頃だった。

俺の学習教材はすべてテレビから入ってくる情報のみだった。アニメやドラマから、NHKの高校講座にいたるまでその情報源は多岐にわたった。逆に言えば、小学校で育むべき社会性や社会規範といったものは欠落し、同年代の小学生が知る由もないことを知識として吸収した。


いつからだろうか。自分のクズ親たちが死ねばいいと思い始めたのは。そして、その機会は待っていてもやってくることはほぼ起こりえないことだと悟ったのは。


いつからだろうか。待っていても勝手にクズ親たちが死ぬことがないのなら、自らの手で殺めてしまえばいい。そう思ったのは。

Hika ( 2019/06/25(火) 11:25 )