一束目
第2花ーエゾギク
「私にはわかるんですよ先輩。先輩の過去が。」
時間が止まった。ような気がした。けれどすぐに俺は現実に戻った。
「何言ってるかわかんないけど、1年は次移動でしょ?早く行きな」
「はーい」
軽く返事をしてその子は小走りにけれどどこかに優雅さを残して教室を出ていった。そういえば、名前を聞き忘れた。ランの香りがした子だった。


いつもの奴らに後から散々、ナンパだなんだとからかわれたがそれも全く頭に入ってこなかった。俺は頭をフル回転させながら、なぜあの子が俺の過去を知っているのか思案を巡らせた。が、答えは出なかった。今の段階では考える材料が少なすぎる。そもそもあのランの香りの子の名前すら知らない。どうせ同じ学部なのだすぐにまた出会うはずだ。その時に問い質せばいい。とりあえずの問題を棚上げして俺は足をおんぼろの体育館へと向けた。



体が思ったように動かない。自分の足にボールが全くと言っていいほど収まらない。
「春樹―、ボール収まってねぇぞー」
「さぁーせん」
特に大会とかも出ずに有志で集まってただゲームをし続けるようなサークルだ。先輩の喝もぬるい。けど、こんなにも収まらないことは初めてだった。いつもはキレキレのエラシコもルーレットもボールがついてこない。いや、自分の体がついてこないのか。どフリーのゴール前でもボールがミートしない。いつもと感覚が違った。

2時間動き続けていつもと違う感覚になんとなく慣れた頃に解散となった。普段、サークル後に感じる爽快感は一つもなかった。汗はかいたが心地の良い汗ではなく、いつもと違う感覚に対して感じる焦りを含んだ不快な汗だった。例えるなら、ベタベタとした夏の寝苦しい夜の汗だ。

いつもと違う感覚と不快な汗が嫌で一人でボールを蹴っていた。誰もいないゴールに向けて、今の自分の嫌な感情を払拭するかのように右足を振り抜いた。が、無情にもバーに当たって足元へ蹴ったボールが戻ってくる。ムキになってボールを蹴り続けた。何度かはネットを揺らしたがそれでも納得がいかなかった。ただ夢中に、初めてサッカーをした少年のように蹴り続けた。その心は全くもってそんな純粋なものではなかったが。

「菊野君?まだ残ってたんだね」
ボールを蹴り続けることに夢中になっていた俺の耳に優しい声が届いた。

■筆者メッセージ
どうもHikaです。ご無沙汰しておりました。「寒空のカタオモイ」も完結していよいよ「名もなき花の物語」スタートします。いつも通りの亀更新で頑張っていきますので陰ながらでいいので応援していただければいいなぁと思います。

各話のタイトルについている花の名前ですが、今回はTwitterなどで言っていた通り花言葉を題材にしてこの作品を書いております。気になった方は調べながら読んでいただければと思います。

それではこの辺で。
Hika ( 2019/05/17(金) 02:55 )