第1花ーケシ
新年度が始まった。と言ってもすることは変わらない。毎日決められた教室で講義を聞いてただ板書をノートに書き写していくだけの作業。そんな毎日が積み重ねられていく。そんな平凡な毎日だった。
普段一緒に講義を受けているいつもの奴らと講義中にひそひそと話をしたり、誰かが休めば代わりに出席にしてあげたり。昼になればそれほど美味しくもない、ただ値段だけが取り柄の学食のメニューをローテーションで食べる。食べ終われば次の講義の教室へと向かう。ただこれだけの作業を毎日毎日繰り返す。大学に入学して1ヶ月でルーティンワークになってしまった。
楽しみの無さそうな毎日の中でも唯一の楽しみはあった。週2回のサークル活動だった。小汚い体育館で2時間フットサルをして汗を流す。これだけが楽しみだった。
つまらなさそうな大学の中で週2のフットサル。いいバランスで1年間このルーティンを崩すことなく過ごしてきた。
今年もそうやって過ごそうと新入生との初顔合わせでぼんやりと考えていた。しかし、そんな俺の目論見は早々に破綻するのである。
「先輩、先輩の目には光がありませんね。私と同じで。」
顔合わせが終わって教室を出ようとした俺を呼び止めてきた後輩が放った言葉。とんでもなく失礼だったが、そういう子もいるという理解がある方だと思っていたので怒ることもしなかった。しかし、その子はさらに続けた。
「『愛』って何なのでしょうね。先輩はずっとその答えを探してここまで生きてきたんですよね?」
そう言われてやっとまともにその後輩の顔を見た。かわいい子だった。ほのかにランの香りがした。
「何言ってんの?君」
「私にはわかるんですよ先輩。先輩の過去が。」