第4章〜遅刻〜
第31話
思い出深い陸上部の部室。ここで、決着をつける。僕が出した答えを…。


「教えてよ、純奈。『人の気持ちって変わってしまうものだよ?』なんて伝えてくれた理由をさ」

少しの沈黙。それからゆっくりと純奈が口を開く。
「そのままの意味だよ、英晞」
「えっ…?」
「人の気持ちは変わる。というか変わるのが人、だから。それはじゅんも英晞も例外じゃない。」
「分かってる。だから僕も変わった。だから純奈を今日ここに呼んだ。」


純奈が僕を見つめる。不安になりながらも僕は続ける。
「純奈は僕のことを好きって言ってくれた。その気持ちってもしかして…」
「うん。ごめんね。じゅんから言ったのにね。『待ってる』って。でも、じゅんが好きだった英晞の真っ直ぐさがじゅんにはすごく辛かった。」
純奈の目に涙がにじみ始めた。

「じゅんが真っ直ぐな英晞を苦しめてたって気が付いたから…。すごく英晞に考えさせちゃったし、悩ませちゃった。好きが故の行動だったけど、今考えればすごく嫌な女だなって思っちゃって。」
「そんなことないよ。純奈のおかげで気づいたことだっていっぱいある。純奈がきっかけをくれたおかげで僕は考えることができた。」


僕は何とかして純奈からこの後言われるであろう言葉を回避するために色々な言葉を並べた。みじめなのは分かっていた。けど、どうしても聞きたくなかった。やっと僕が出した答えを否定されるようなことなんか、起きてほしくなかった。


「純奈、お待たせ。」
僕の声は震えていたと思う。けど、構わずに続けた。ただ、一心で。
「答え、出したよ。」
純奈は目に大粒の涙を光らせながら、「ごめん」と繰り返しながら首を横に振る。






「僕が出した答え。やっとはっきりして伝えられる答え。ずいぶん待たせちゃったけど、色々考えて出した答え。純奈、僕は純奈が好きみたいだよ。」








「ありがとう。どうしてじゅんはこんなにも嫌な女なんだろうね。」

純奈がフッとため息を吐いた。

「英晞の気持ち、すごく嬉しい。けど、その英晞の気持ちを受け止めることなんかじゅんにはできない。そんな資格ないと思うから。どうしても英晞に対して引け目を感じちゃうから。今まで通りに過ごすのは良いんだけど、こんなじゅんが英晞の隣にいたらダメな気がするんだ。というか自分で自分を許せないから。だから、ごめんね?じゅんが先に好きになっておいてこんな感じになるなんて。」


「そんな…。そんなことないよ!純奈は…純奈は…」
視界が涙でぼやけた。

「英晞、ありがとう。こんなじゅんを好きになってくれて。」
そう言っていつだかのようにまた抱きしめられた。ぼやけて純奈の顔は見えなかったけど、微笑んでくれているようだった。

■筆者メッセージ
どうもHikaです。今日の夜に最終話更新しようと思います。最後までどうぞよろしくお願いします。
Hika ( 2019/05/06(月) 15:46 )