第2章〜動揺〜
第20話
『僕が本当に好きなのは誰だ…?』

いくら考えても答えは出なかった。確かに日奈子のことは好きだ。振られたとはいえ、彼女の笑顔はやっぱり素敵だしその笑顔はいくら見たって飽きないと思う。
じゃあ純奈は?彼女は献身的で、どこまでも真っ直ぐだ。まぶしいくらいに。こんな僕のことを思っていてくれて、なのに僕は日奈子のことを見ている。それに文句ひとつ言わずに協力してくれた。何より、辛いときに寄り添ってくれたのは純奈だった。

決められなかった。むしろ、決めてしまうと今この楽しい瞬間がもしかしたら崩れるかもしれない。悩みはするけど白黒はっきりつけないでいた方が幸せなんじゃないか。そう思った。
『僕が本当に好きなのは誰だ…?』いつかこの疑問は時が解決してくれると信じて僕は考えるのを止めて寝床に着いた。

夏休みはあっという間に過ぎていった。部活の最後の大会はそこそこの成績で幕を閉じた。悔しさは特になかった。最後だからと後輩たちが色紙をくれたりしたのはすごく嬉しかったし、この学校に転校してきてこの陸上部に入れてよかったと思えた。それは日奈子や純奈に出会えたからというのが理由ではなく、ただ単純にこの陸上部という環境が好きだったから。

9月に入った。北海道ではそろそろ肌寒くなってくる季節でもある。そして僕ら受験生は志望校を確定させるための大事な時期でもあった。
「日奈子は高校どーすんの?」
「純奈と同じでN高校だよ。英晞は?」
「僕はまだいろいろ考えてて決めてないんだよねぇ」
こんな会話は僕たちだけではなくいたるところで行われていた。それくらいにはみんなも徐々に受験について考えるようになっていた。

僕がまだ受験校を決めてない、いや決められない理由。純奈たちの目指すN高校は僕の学力的には十分に行ける高校だった。担任曰く「もったいない」と言われるほどに。けど、純奈たちと同じ高校に行って、今まで通りに楽しくこの関係のままいられたらと考えてしまう。けれど、自分にはそれなりに大きな夢があった。それを叶えるためにはN高校ではその先の進路を考えると正直厳しかった。
『今、この時を選ぶのか それとも自分の将来を見据えるか』

大きな人生の岐路だった。

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「んで、結局はN高じゃなくてG高にしたわけね」
「O高落ちたからだよG高に来たの」
僕はフッと息を吐いた。
「普通に考えればたかが中学生の恋愛で自分の将来を捨てるなんて考えには至らんな」
「そりゃそうさ。けど、さっきも言った通り、」
「恋は盲目、だろ?」
陸はニヤッとして僕に言った。
「そーゆーこと」
陸には目もむけずに呟いた。
「けど、今考えたらN高行っとけばなぁってたまに思うこともあるよ」

■筆者メッセージ
どうもHikaです。一応、こんな終わり方ですが次回から第3章になります。この作品を書き始めた頃はここまで書くつもりじゃなくてもっと短い短編にしようと思っていたのですが、案外書いているとここも書きたいあれも書きたいになって結局全体が膨らんじゃうんですね。この作品はどこまで膨らむのやら…。

そういえばこの作品「寒空のカタオモイ」は書き始めが去年の3月でちょうど一年前だったことに気が付きまして。半年くらい休載したり、そもそも更新が遅かったりと色々とありますがこれからも頑張っていくので、今後もお付き合いいただければなと思います。それではこの辺で。
Hika ( 2019/03/22(金) 04:31 )