第18話
「もしもし?」
「なんかあった?英晞」
「いや、なんとなく暇だったし」
嘘だ。暇なんて理由で電話なんか掛けるはずがない。そんなことは純奈だってわかっていたはずだ。けれど純奈はあくまで普段通りだった。
「それでさー、岡田先生がハードルやったら思いっきり脛にぶつけて悶絶してたんだよね」」
「えー、何それウケる」
他愛もない話ばかりしていた。けど、こうして普段通りの馬鹿話なんて久しぶりに感じた。なんとなく元気になったというか、「ちゃんとしなきゃ」って思えた。
「ありがとう純奈」
「急にどうしたのさ、じゅんは何もしてないよ。いつも通り英晞と話をしただけ。」
「そっか、ありがとう」
「だから、礼なんか言われる筋合いないから!じゅんだって英晞とあまり話しできなくて寂しいんだよ…」
「純奈…」
純奈の名前を呟いてから少し間が空いた。
「話してもいいよ。辛いんでしょ?」
僕の中でつっかえていたものが外れた。右目から一筋、涙が流れ落ちると堰を切ったように涙が出てきた。
「僕の何が悪かったんだろうね…。優しいってなんなんだろうね…。」
ここ数日ずっと考えていたことが出てしまった。そのまま二人は黙ってしまった。
「…。じゅんはそれで何回も救われてきたよ。その英晞の優しさに」
「英晞は間違ってないよ。じゅんが証明する!じゅんは…そんな優しい英晞が好きなんだから」
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「この言葉でだいぶ救われたよ。これがなかったら、ずっと考え続けて病んじゃってたかもしれない。」
「確かに永遠の謎っていうか、一生かけても答えが見つからなそうな命題だな」
「命題なんて頭よさそうな言葉使って」
僕は笑った。最近数学で出てきた言葉だ。きっと覚えたての言葉を使いたくなったんだろう。
「んで?そっから純奈を意識するわけ?」
「まぁ、時系列的にはそうだけどまだまだかかるよ」
僕は手に持っていた空の缶を地面に置いてまた話し始める。