第50話
巧輝「七瀬、もう少しこっち来てくれる?まだちゃんと動けないから」
特に深く考えることもなく、七瀬は座っていた椅子をベッドに近づける。
すると、巧輝が急に体を起こして、七瀬に口づけをする。
永遠とも思えるような時間が2人の間に流れる。
七瀬「んっ・・・」
七瀬の口から艶っぽい声が漏れ出る。
それから時間にして20秒ほどだろうか。どちらからとも無く離れる2人。
七瀬「急にキスされたから、心の準備何もできへんかった・・・」
巧輝「ごめん」
七瀬「ううん、ええんよ どっちかというと嬉しかったし でも、どうして急に?」
巧輝「ん、七瀬の話を聞いてたら、七瀬がいつも以上にかわいく思えたから・・・」
今度は巧輝が七瀬から目線をはずし、顔を赤らめて言う。すると、何故か七瀬の頬が再び紅潮する。
七瀬「なぁ、巧輝・・・」
巧輝「うん・・・?」
巧輝が七瀬からはずした目線を戻すと、今度は七瀬からのキス。2人の間に流れる、再びの永遠とも呼べる時間。しかし、それはすぐに終わりを告げる。
七瀬「これでおあいこや・・・」
七瀬の顔は先ほどから赤いまま。
巧輝「お、おう・・・」
巧輝も言葉を返すにしても何も言えない。そのまま数十秒の沈黙がその場に横たわった。
その沈黙が去り、先に口を開いたのは七瀬。
七瀬「そういえば、明日は巧輝の誕生日やろ?プレゼント何が良いん?ホントはこれを聞こうと思って今日来てん」
巧輝「入院しててずっと気づかなかったけど、明日は誕生日だったのか・・・」
七瀬「自分の誕生日忘れてたん? それでプレゼントやけど・・・」
巧輝「んー、七瀬がいてくれるだけで充分なんだけどな」
今日、何度目か分からないほど七瀬がまた顔を赤らめる。
七瀬「それは嬉しいけど、それじゃななの気が収まらんねん ななの誕生日はあんなに大きなパーティー開いてくれたのに、何もできないなんて嫌やねん」
巧輝「そういうことなら、何が良いかな・・・ 家に戻ってから使えるものが良いかな・・・ あ、そうだ この間まで使ってたマグカップを落として割っちゃったから新しいのが欲しいかな」
七瀬「マグカップね、わかったで マグカップなら、ななも買ってお揃いで使おかな」
巧輝「確かにそれもいいね 色違いとかで」
七瀬「せやね、色違いにしよ」
七瀬が頷きながら言う。
巧輝「それなら、七瀬が好きな色のマグカップをくれると嬉しいな」
七瀬「うん、わかったで じゃあ、ななは巧輝が好きな色のにしようかな 巧輝の好きな色って何やったっけ?」
巧輝「青かな でも、淡いブルー、水色くらいが好きかも」
巧輝がそう言うと、ちょうど院内アナウンスで面会終了の時間が近いと放送された。
七瀬「うん、水色ね 明日プレゼント買って持ってくるから」
巧輝「うん、ありがとう」
七瀬「まだ何もあげてへんよ 明日ね」
七瀬は言いながら椅子から立ち上がる。それから、どちらからとも無くもう1度キスを交わす。
それから少し話をしてから七瀬は病室を出ていった。
2人ともこの上ないほど幸せな気分でいっぱいに包まれていたー。