第46話A
その日は何だかよく分からないけど、嫌な予感がしていた。今までもこんな嫌な感じは何度かあった。虫の知らせって世間では言うらしい。これまでのは、練習中に急に雨が降り出して全身びしょ濡れになったり、先生に仕事を押し付けられたりと、そんな程度のものだったから、特に気にせずにいた。
学校での練習試合のために、朝早くから家を出る。すると、タイミングよく奈々未も同時に出てきた。成り行きで一緒に行くのは日常茶飯事だ。
奈々未「巧輝、おはよう!」
巧輝「おう、おはよ奈々未」
奈々未「今日の相手は札幌第二ね」
巧輝「インターハイ予選の決勝と同じ相手だな」
奈々未「あれは見ててヒヤヒヤした試合だったからね〜」
巧輝「決勝だったから相手もかなり気合い入ってたんだろ」
そんなことを話していると、すぐに学校に着いた。まだ部員も疎らだった。
練習試合は実力が拮抗していて、1点差や2点差の試合がほとんどで、結局2勝1敗1分でこの日は終わった。部員達も特に怪我はしていないようだった。試合後のミーティングでは、
設楽「今日の試合は中盤の競り合いが長く続いて集中力も必要になる場面が多かった。集中力を切らさないように、選手間でしっかりチャレンジとカバーをはっきりさせてコミュニケーションを取れ。それから、セットプレーからの得点が今日は3点しか無かった。フリーキック、コーナーキック合わせて25回あったが、フィニッシュまで行けたのは半分くらいだ。もっとセットプレーの正確性を増さなきゃ試合にならんぞ。明日の練習試合と週明けの練習はセットプレーを意識してやれ。それじゃ、解散!」
帰りは学校近くの大通りを通って帰ることにした。メンバーは、巧輝と奈々未、俊、賢吾、日芽香、雪弥。
巧輝「賢吾、2試合目のコーナーキックの時何でもっとニアサイド入らなかったんだ?」
賢吾「決勝で戦った時、ニアサイドへのクロスボールがことごとくクリアされてたから、あそこにボールが入ってきても決めれないと思ったんだよ」
俊「確かに、ニアポストに必ず長身のDFが立ってたから、空中戦は無理があるよ。低いボールならスライディングとかで合わせられるけど、その分、相手もクリアしやすくなるから難しいよ」
雪弥「こういう時の形を作っておかなきゃいけないですね・・・。」
巧輝「週明けの練習で考えてみるか」
マネージャーの奈々未と日芽香は別の話をしていた。
日芽香「先輩、雪弥と来週の週末に街中行くんですけど良いところありますか?」
奈々未「デート?良いね〜 んで、良いところ?んー、ベタに動物園とか?動物園行って、神宮とかかな〜」
日芽香「ベタなのも良いですね〜 時計台とかも良いなぁ・・・」
奈々未「時計台は雰囲気あって良いわよ」
そんなことを話しているうちに、道は大通りから1本入った少し狭い道に入る。信号の無い交差点に差しかかると、反対側からボールを追いかけて走ってくる小学校低学年くらいの男の子。
『 車が来たら危ないなぁ・・・』それぐらいにしか考えていなかった。でも、運悪くそこにやってくる1台。男の子は全く車に気づかない。
奈々未「あ、危ないっ!!」
彼らの目にはそれからのことがすべてスローモーションに見えていた。巧輝が男の子を助けるために飛びこんでいく光景。男の子を歩道に突き飛ばして、車にぶつかる巧輝。
『 あ、死ぬのかな・・・。死ぬなら七瀬にちゃんとさよなら言いたかったな』
徐々に巧輝の意識は途切れ途切れになって行った・・・。