高校2年生5月
第14話
そして、こちらは男子サッカー競技会場。男子組のラストゲームは巧輝たち2組とサッカー部のキャプテン侑汰率いる3-2との試合。ちなみに3-2には、インターハイ予選メンバー入りをした選手が13人中、9人。ここまで両チームとも全勝でこの試合を迎えている。巧輝率いるチームはインターハイ予選メンバー入りしたのは、巧輝、俊、賢吾の3人だけ。なかなか厳しい試合になるであろうことは観客もわかっていた。

ピーッ! 試合開始の笛が鳴る。
キックオフで賢吾から巧輝へとボールが渡される。巧輝はファーストタッチを狙ってスライディングしてきた3年生をいとも容易くかわす。そのまま巧輝は少しドリブルをして右サイドハーフに一度ボールを預けて走り出す。右サイドハーフのファーストタッチを狙った3年生はサイドハーフを狙って迫るが、巧輝たちの方が一枚上手でワンツーで巧輝へと再びボールは戻る。そのまま巧輝はライン際を駆け上がる。

七瀬「すごい…。全然レベルが違う」
奈々未「当たり前でしょ?サッカー部でお互いにチーム作られてるんだし」
七瀬「でも私、ちゃんとしたサッカーの試合見るの初めてだから…」
奈々未「あ、そうだったんだ」
七瀬「でも、巧輝君カッコ良いからつい巧輝君を見ちゃうな」
奈々未「恋してるなー」
そうして2人は笑う。

その頃先輩たちは…
深麻「巧輝ーがんばれー」
真夏「何よ、侑汰が勝ってくれるんだから!!」
美彩「まあまあ、2人ともケンカしないで見てよ?ね?まいやん」
白麻「巧輝君カッコ良い」
美彩「目がハートになってる…」
深麻「恋する乙女ね」
真夏「良いじゃない、恋しても」
白麻「その通りね〜」
そう言って4人は視線を試合に戻す。

巧輝がちょうどゴール前にセンタリングを上げるところだった。賢吾がセンタリングに合わせてゴール前へ入ってくる。巧輝は賢吾が合わせやすいボールを蹴り入れる。DFの侑汰が難なくヘディングでクリアする。クリアボールを拾ったのは逆サイドにいた俊。俊からゴールのファーサイドに走り込む巧輝にアーリークロスを上げる。DFは反応できず巧輝に利き足とは逆の左足でボレーシュートを打たれる。ボールはネットを揺らす。開始3分でのゴールだった。

それからは一進一退の攻防が続き、前半終了間際にコーナーキックのチャンスを与えてしまう。
DFラインからは侑汰が上がってくるが、ペナルティーエリアへは入らずに少し離れた所にポジションを取った。
『侑汰先輩があの位置… イヤな予感がする』
巧輝は自分の直感を信じて侑汰にぴったりとマークする。
コーナーからのボールはキーパーの取りにくいファーサイドへ。巻いてくるボールはキーパーの手をすり抜け、誰もがネットが揺れると思った時、俊が身体を投げ出してゴールを防いだ。ここで巧輝は安心してしまったのか、侑汰へのマークが甘くなる。
『やばいっ…!』
巧輝がそう思った時にはすでにボールは侑汰の足下に。そのまま侑汰は豪快なミドルシュートを放つ。倒れているキーパーは反応できずにゴールを決められる。
前半終了間際の同点ゴール。そのまま前半終了の笛が鳴ったが、巧輝たちの間には何かイヤな空気が横たわっていた。

後半開始。後半は相手のキックオフから。巧輝たちは前半の悪い雰囲気を引きずってしまい、防戦一方に。

侑汰のロングスローで混戦だったゴール前にボールが投げ入れられる。なかなかうまくクリアできず、焦ったキーパーが出てきてしまい、ゴールが空いてしまう。相手に渡ったボールはあまり強くないシュートで、ふらふらとゴールに向かう。そのままのコースで行けば、ゴールラインを割っていたのに、ゴール前の混戦のせいでDFに当たってコースが変わる。それはゆっくりとゴールを割る。
1-2。ついに逆転を許してしまった。全勝同士、この試合に勝った方が優勝なのだ。
ここで巧輝は自分の心を落ち着けるように大声で言う。
「まだ時間はある! 何としても追いついて、勝つぞ!」

その声に鼓舞されたのか、先ほどよりメンバーの動きが良くなり、攻撃の時間も増えてきた。だが、侑汰のコントロールするDFラインは綺麗に統率されていて、裏を狙うボールを出すとことごとくオフサイドになる。
巧輝にも焦りが見え始める。
『そろそろ時間もない…! こうなったら!』

俊からのスローインでボールは賢吾へと渡った。賢吾はドリブルでゴールへと突っかけていく。そこで巧輝は賢吾の後ろを走り、
巧輝「賢吾、ヒールで落とせ」
そっと言う。

賢吾から落とされたボールは良いタイミングで巧輝に渡る。そのまま巧輝は高めのDFラインを引いていたDFの間をするりと抜け、ミドルレンジから強烈なシュートを放つ。そのボールは無回転で不規則に変化する。GKが目の前に来たボールを弾こうとした瞬間、ボールの軌跡は変わり、腕と脇の間を抜けていった。
同点。これで2-2。
こうなると、追いついた方は精神的に有利な状況になる。一方、追いつかれた方は段々と焦り始めてくる。そこを狙って巧輝たちが攻勢に出るが、侑汰たちが辛くも守り続け、後半が終わってしまった。
このままでは得失点差で決まると思っていたのだが、どうやら得失点差も同じようで、急遽PK戦を行うことに。

賢吾「巧輝、どうする?PKの練習なんかしてないぞ」
俊「もう、巧輝にメンバーは任せよう」
俊のその言葉でメンバーは巧輝の指示を待つ。
巧輝「わかった。じゃあ、キッカーは………」

その頃、侑汰たちのベンチでは……
侑汰「賢吾が最初のキッカーのはずだ。その後は3番目くらいに俊が来るだろう。巧輝は最後、5人目だろう。」
侑汰はそう言って、キーパーに蹴ってきそうな選手の癖などを教える。
侑汰「んじゃ、1番目は俺が蹴る。その後は………」

そうして、お互いにキッカーが決まったようでPK戦が始まる。先攻は3-2。キッカーは侑汰。
侑汰がボールをプレースする。そのまま大股で三歩後ろへ下がり、逆エンドのゴールを眺める。
主審の笛が鳴る。
ゆっくりとした助走から、抑えたグラウンダーのボールを右隅へ蹴る。
キーパーは反応はしたものの、惜しくも手が届かず。1-0となる。

後攻の2-2。キッカーは誰もが予想しなかったであろう、俊。
『う、うそだろ……!?』
1番驚いていたのは侑汰だった。俊を最初に持ってくるのは全く考えなかったわけではないが、賢吾の性格を考えると1番目は賢吾だろうと結論付けたのである。
俊がボールをプレースし、助走のために後ろへ下がる。
主審の笛が鳴る。
俊はさっきの侑汰よりもゆっくりとした助走を開始する。
キーパーは待ちきれなくなったのか、左サイドへと飛ぶために左足に体重をかける。
その動きを見た俊は、元日本代表の遠藤のコロコロPKのようなボールを落ち着いてゴール右隅へと決める。これで1-1。

その後、お互いの3人目まで終わり1回ずつ失敗したため、2-2となる。その後、先攻の4人目のキッカーが強烈なシュートをゴールに叩き込み、3-2に。

そして4人目のキッカーは賢吾。
ペナルティーマークへボールを置き、助走を取る。
主審の笛が鳴る。
侑汰や俊とは違い、早い助走でボールを蹴る態勢になる。
キーパーは直感で右に飛ぶ。
しかし、賢吾はゴールのど真ん中へとボールを蹴る。これで3-3。
ここで侑汰は
『5人目に巧輝が来る…』
そう思い、キーパーにそう伝える。

その後の先攻の5人目が決め、4-3に。
皆がここで予想していた、巧輝は動かず、試合には出ていなかった選手がボールを受け取り、ペナルティーマーク上に置く。
侑汰は
『まずい、完全にノーマークだった…… 巧輝じゃないのか!?』
そう思うが時すでに遅し。
もちろんPKは決まり、4-4。6人目へと勝負は移る。

侑汰は6人目に行くことなど考えておらず、不安なまま6人目を送る。

6人目のキッカーがボールをプレースする。
そして、助走を取り始める。
『まずい、助走が短すぎる。 あいつは明らかに動揺している。 あれでは失敗する』
侑汰はそう思うが声はかけられず、笛が鳴る。

果たして、侑汰の予想通りキーパーにコースを読まれ、難なく弾かれてしまう。これで4-4。ここで決められてしまえば、負けが決まってしまう。
『まさか、ここで巧輝が蹴るのか!? じゃあ、巧輝はこうなることを最初から予想していたということか!?』

後攻、6人目のキッカーはもちろん巧輝。
巧輝は慣れた手つきでボールを受け取り、ペナルティーマークへ置く。
助走を少し長めに取る。
運命の笛が鳴る。
巧輝は助走を開始する。キーパーはしっかりと反応してやろうと、精神を研ぎ澄ませていた。しかし。

ボールの目の前に来て、誰もが右足で蹴ると思っていたが全くの予想外なことが起こった。そう、巧輝は軸足として踏み込んだ左足でボールを蹴ったのだ。

誰もが予想できずに度肝を抜かれ、キーパーも何が起こったのかわからずに反応が遅れ、ボールが自分の横を抜けようとする時に気づくが時すでに遅く、ボールはゴールへと吸い込まれていく。

結果は5-4。巧輝たち、2組がサッカーを優勝し、同時に総合優勝を勝ち取った。

そして閉会式を終え、優勝旗は今日のMVPに選ばれた巧輝が受け取った。こうして、巧輝たちの優勝によってクラス対抗競技春大会は幕を閉じた。

■筆者メッセージ
クラス対抗競技春大会が幕を閉じました。5月編はあと2話で完結の予定です。
Hika ( 2016/02/08(月) 22:44 )