3章
04
ある日のこと。2年6組で授業をしていた。

「はいじゃあこのページの4行目から8行目まで誰に読んでもらおうかな?」

俺は教室を見渡す。こっちを向いている物もいれば、そっぽを向く者もいた。

「じゃあ東村」

東村芽依

彼女はすごく大人しい。授業中に指さなければ発言をしない。俺も彼女からの会話は数える程しかしていない。

「………、……」

「東村、声小さいぞ」

俺は東村に近寄る。

「1192年に鎌倉幕府が設立、鎌倉時代が始まった」

「よろしい。もうちょっと声出そうな」

東村は頷いた。俺は授業を続ける。

キーンコーンカーンコーン

授業が終わり職員室に向かう。デスクに座るとパソコンを開いた。
すると宮田先生がやってきた。

「小坂先生、芽依ちゃん体調が悪いので早退させます」

「そうですか。東村のお宅には電話しときます」

うちのクラスには自宅から通学している者が東村含め3人いる。
東村の家に電話をかける。

プルルル、プルルル、プルルル、

「はいスナック眞緒でございます」

「すいません、日向坂学園で東村くんの担任をしております、小坂でございます」

「小坂先生、いつも芽依がお世話になっております。芽依がどうしたんですか?」

「実は東村くんがの体調が悪くて、早退させることになりまして」

「そうですか。わざわざありがとうございます」

「東村くんにお大事にとお伝えください」

俺は電話を切った。



その日の夜、東村の家に寄ることにした。
東村の家はスナックである。地図アプリを参考に歩いて行くと、スナック眞緒と書かれた看板があった。
店の扉を開ける。

カランカラン

「いらっしゃいませ〜」

そこには高校生くらいの女の子が立っていた。

「あの眞緒さんいますか?」

「ママは買い物に行きました。もうちょっとで帰ってきますよ」

「そうですか」

「ご注文は?」

「じゃあウーロン茶ください」

「はい。かしこまりました」

女の子は冷蔵庫からウーロン茶を取り出してコップに注ぐ。

「どうぞ」

「ありがとう。あと名前教えてくれないかな?」

「柿崎芽実です」

「いくつ?」

「17歳です」

「そうか。俺の名前は小坂裕翔。日向坂学園で先生やってるんだ」

「そうなんですか。もしかして、芽依ちゃんが言ってた小坂先生ってあなたですか?」

「そうだよ」

カランカラン

「芽実ちゃん店番お疲れ様。あっ先生、こんな時間にありがとうございます」

「いえいえ。東村くんの様子を見にきたので。会いに行ってきていいですか?」

「ぜひどうぞ。芽実ちゃん、先生を部屋にお連れして」

「どうぞ」

芽実ちゃんは俺を東村の部屋まで案内してくれた。

「ここです」

芽実ちゃんはノックをする。

コンコン

「芽依ちゃん。先生が来たわよ。入っていい?」

「ええよ」

俺達は東村の部屋に入る。

「おう東村」

「せんせぃ〜」

弱々しい声がさらに弱々しくなっている。

「良くなったか?」

「すこし」

「そうか、早く治るといいな」

「うん」

「じゃあ先生帰るから。ちゃんと寝るんだぞ」

俺は芽実ちゃんといっしょに部屋をあとにしてお店に戻った。

ジェリー ( 2020/04/28(火) 02:28 )