曲がり角を曲がれば。







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第5章
27 ボーッとしてんじゃねぇよ。
「5日間ほんと助かった」


「本当にそう思ってんのか」


「別に」


翌日の金曜日。
昼前の新幹線で帰るという未央奈の見送りに来たのはいいけど。
昨日のことを全然覚えてない。
合流してお店に入ってからお酒が入り始めたくらいから記憶が曖昧なまま。


「可愛くない妹め」


「聞こえてんだけど」


「なんでもないでーす」


ホームまでキャリーバッグを引く俺は一生こんな感じなんだろうなと感じながらもただ従うしかない空気が嫌です。


「あ、もうすぐ時間だ」


親父と母さんがいなくなって8年。
あの頃とは違って。
俺たち兄妹は変わってしまった。
身体ももちろん、それぞれの考え方だってそれぞれ異なっているだろう。


2人がいなくなって。
そりゃ寂しいよ、会いたくなるよ。
でも、元気そうな未央奈と真司を想像するだけで俺は幸せになれる。
2人の嬉しそうな表情が。
自然と浮かんでくるんだ。


「…き。クソ兄貴」


「っ、あぁ。ごめんごめん」


「キャリーバッグ貸して」


目の前にいつの間にか、のぞみが。
最近考え事が多い気がする。
ちょっと気をつけます。


「絵梨花さんと仲良くね」


「お前に言われんでも分かってるよ」


「もう行くよ?未央奈さんが帰っちゃうんだよ。何も伝えなくていいの?」


「はぁ?別に何もないわ」


「じゃあ、あたしから1つだけ」


「なんだよ…」


「なんでも1人で抱え込もうとしてんじゃねぇよ、あたしらにも相談くらいしなよ。力になるかはわかんないけど、助けてあげるから」


「あと、絵梨花さんのこと。いい加減名前で呼んだげたよ、そゆとこだよ。マジで」


「そんだけ、じゃっ」


さっさと乗り込むと消えていった。
唖然としたままの俺をよそに。
新幹線はゆっくりと動き出す。
そしてそのまま消えていった。


1人で抱え込むな、か。
その通りかもな。
でも、2人に心配させたくない。
変なとこでその気持ちが働く。


そりゃ、俺だって。
こんなことばかり考えてるから。
2人と向き合えてなかった。
面と面で話ができなかった。


失うものなんてない。
そう思ってたのに。
未央奈と真司が1番に浮かぶ。
2人に悲しい思いを2度とさせたくなかったから、俺が全部背追い込めば。
親父と母さんにちゃんと生きてるって証明できるのかなとか考えて。


でも、親父と母さんががどう思ってるかなんて今更わかるわけなんてない。
そうこうしてるうちに、歩いて入り口まで戻っていると目の前にはお嬢様。


「帰っちゃったんだ」


「えぇ、そっすね」


「あの、今更なんすけど」


「何?」


「お嬢様って呼び方を変えます」


「え、どうしたの。急に」


「絵梨花…って呼んでいいすか?」


「私はいいけど…なに?未央奈ちゃんに別れ際なんか言われたりしたの」


「いやいや、ただの俺の気まぐれっすから。いい加減呼び方変えようって考えてたの話してたじゃないすか」


「じゃあ、私は」


「幸平って呼んじゃおうかな」


幸平。
過去にそう呼ばれたのは。
小百合と付き合ってた時。
でも、お嬢様は。
出会ったときからずっと。
変わらないまま。


未央奈、ありがとな。
お前の言う通りだよ。
俺はいつまでもクソ兄貴だ。


でも、お前は。
俺のために。
言ってくれたんだよな。
そう思いたいよ。


「じゃあ、帰りましょうか」


こんな日々が続けばいい。
俺のささやかな願い。
このまま続けばいいのにって。


その小さな願いが。
もうすぐ、崩れ去るなんて。
この時はまだ知らなかった。



俺自身の秘密について。

■筆者メッセージ
これで第5章も終わりです。
なんだかんだ閲覧数も50.000を超えて更には変わらず拍手も頂き、読者の皆さんには感謝しかありません。

あともう少しだけ。
お付き合いお願いします。


最後まで書き切って。
このサイトからいつ消えてもいいように、この作品と最後まで向き合っていければと思います。


感想お待ちしております。
ガブリュー ( 2019/01/02(水) 02:31 )