曲がり角を曲がれば。







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第5章
25 なんだかんだで。
その後のお嬢様は。
バイトが急に入ったりして少し忙しそうな毎日を送っていた。
木曜日に予定してた3人の食事会。
先に未央奈と2人で待ってたら。
メールが来ました。


『コーヒーメーカー故障中』


『来れなくなっちゃった。楽しんで』


メール見た瞬間、開く口。
未央奈をチラッと見ると目が怖い。
ぜってえメンチ切ってるよ。


「お嬢様が来れなくなった」


「あんたと2人?」


2人きりなんて初めてかも。
たぶん初です、はい。


「え、行くのやめる?」


「行く。回らないお寿司だから」


行かないって言われたら。
俺はどんだけ凹むんだろう。



「お嬢様はまた俺が飯作る」


「よし、早速行こう」


いろんなお酒とお寿司が楽しめる。
人づてにいろんなお店を探して。
ようやくたどり着いた。
未央奈も満足するようなところ。


「いらっしゃいませ」


「2人です」


「こちらのお席へどうぞ」


カウンター席に通される。
まず座って先に飲み物を聞かれる。


「生と…どうする?」


「えっと、ウーロン茶で」


入り口で席を案内してくれた店員さんがメモ書きした伝票を持って奥へと消えて行った。
お酒を頼まなかった、意外だ。


「酒飲まねーの?」


「なに、飲んで欲しいの?」


「いや、そういうわけじゃ」


「お酒結構飲んだりするの?」


「先輩たちとじゃ、そりゃあ飲むよ。家にいるときは前よりも飲まなくなったかな」


「何にする?」


「美味しいのがいい」


「ここね、雲丹の炙りがうまい」


「え、なにそれ。食べる」


「じゃあ、雲丹の炙り2つ。それと、玉子と海老、カンパチください」


「はい、かしこまりました」


カウンターの向こう側で職人さんが寿司を握り始めた。その間に飲み物が来たのでせっかくだから乾杯することに。


「就職おめでとー、乾杯」


「…乾杯」


グラスを合わせて喉に流す。
明日仕事大丈夫かな。
明日は遅番だしまあいいか。


「はい、お待ちどう様です」


軍艦じゃない雲丹はたぶん初めて。
見たことないようなものが目の前に。


「お先」


「あ、ずりーぞ」


未央奈が先に口に運ぶ。
動きが止まった。


「ど、どう?」


「今までのをあっさり超えた」


「美味しすぎ」


「そーですかい。じゃ、俺も」


微妙な距離感のまま、始まった。
未央奈は職人さんにどんどんネタを注文して容赦なくどんどん食べていく。
人の奢りだからって食べまくる気だ。


「こうやって兄妹2人だけで食べるなんて初めてだよな。俺が家出ちゃったからなぁ。東京に来た頃なんて言葉じゃ表せねぇや」


「そんな大変だった?」


「あの喫茶店で寝泊まりしてたからなぁ。店長さんが部屋貸してくれてさ。今の部屋に決まってからは一切使ってないけど」


「腹減りすぎてふらふらしてたとこを店の2番目のお偉いさんに助けてもらったんだわ。初対面なのにタダで腹一杯食べさせてくれたし、挙句に面接なしで経験もないのに雇ってくれた」


「いまが幸せだから未来が怖いよ」


「いつか必ず、幸せになった分だけ何かが起きる。人生はバランスだって思ってるから」


最初は円滑にいったわけじゃない。
先輩たちから洗礼を受けた。
助けてくれたのは航さんだった。
俺の前に入ってきたんだとか。


「いろんなこと覚えたな。競馬に行ったりとかさ、初めてご飯や飲みに連れてってもらったり。楽しいことも沢山あった」


「あの店は俺の二つ目の居場所だ」


「でも、5人で暮らしてた時間は巻き戻しても戻れない。母さんと親父のことを俺たちが忘れたらそれでこそ2人が本当にいなくなる。それだけは絶対に嫌なんだ」


話終わってグラスを傾けて流し込む。
いろんなことを思い出してしまった。
2人には迷惑ばかりかけてしまって。
母さんたちのことだって。


まだ甘えたかったはずなのに。
もっとちゃんと2人を見とけばって。
兄妹同士で話しておけば良かった。
いまさら、気づいても遅いよな。


俺は最低最悪の兄だ。
そんなことくらい分かってる。
でも、あの時の俺は。
2人のお金を工面したくらいで。
いい兄を演じてただけに過ぎない。


あれから8年近く過ぎて。
傷は癒えないまま生きてる。
家族連れを見ると少し悲しくなる。


「嘘つき」


「甘えたいなら甘えろってあたしに言ったのはあんたの方でしょ。なんで1人で全部背負い込もうとしてんの。あたしや真司がいるんだから何でも話してよ」


「…そうかもな」


「モスコミュールください」


未央奈が店員さんに注文した。
ずっと飲んでたウーロン茶をやめて酒に進もうとしてる。飲めないはずなのに。


「酒飲め、クソ兄貴」


「沢山話そうよ。お互いのこと」


「はいはい、わかりました」


暗い雰囲気が。
未央奈のおかげで変わった。
こういうとこが未央奈のいいとこ。
俺はそう思ってる。


「はい、ほら」


「え、なに。どうした」


「改めて乾杯しよ」


「未央奈さんがおっしゃるなら」


改めて乾杯。
いつもより酒が美味しく感じる。


未央奈の自然な笑顔が。
見れただけでも良かったと思う。

■筆者メッセージ
米津玄師のLemonが好きです。


「いまでもあなたは私の光」


このフレーズに心惹かれました。
自分の光はひとつだけ。
彼女の存在だけです。


永遠に消えることはありません。
自分の記憶から消えない限り。


小さい光だけれど。
永遠に光り続けてます。


今日はクリスマスイブ。
お昼くらいに彼女のとこに行って、クリスマスプレゼントを渡しに行こうと思います。


感想お待ちしております。
ガブリュー ( 2018/12/24(月) 01:37 )