24 She is like a Witch.
「はい、お待たせ」
「待ってました」
2人で話しながら帰って。
気付いた時はもう家の前。
お嬢様は台所に立ちっぱなし。
美味しそうな匂いが広がる。
野菜スープ、大きめのロールキャベツとエビとチーズたっぷりのグラタン。
サラダボウルにはシーザーサラダ。
「わ、普通にすげえっすよ」
「ほんと大変だったんだけど」
「手伝いましょうかって俺が言ったのにお嬢様が頑なに断るからっすよ」
「つまみ食いばっかりするから」
「美味しかったです」
「うるさい」
未央奈は俺のベッドでスマホ。
少ない領地がまた減ってしまった。
しかもスーツケースまであるぜ?
これが兄に対する態度ですか。
「夕飯出来たべ」
「はいはい、行くよ」
気怠そうに起き上がって。
部屋から出て行く。
「え、なにこれ。すごい」
「お嬢様が作ったんだよ。お前が来るからご馳走作るって張り切ってんたんだよ」
「あ…ありがとうございます」
「どういたしまして」
未央奈が敬語を使った。
こんなことでも感動するわ。
未央奈は敬語大嫌いだから。
使えと言っても使おうとしない。
頑固な未央奈がいとも簡単に。
「ほら、冷めちゃうでしょ」
「あ、そっすね。せっかくのご馳走なんだからたくさん食べないと」
「あなたじゃなくて、今日は妹さんのために作ったんだけど」
「いいじゃないすか」
「じゃ、いただきます!」
手を合わせ、スープをすする。
玉ねぎの甘さが丁度良い。
「めちゃくちゃ美味いっす」
「今日は張り切っちゃったから」
2人で未央奈の様子を見守る。
ロールキャベツを切っている動きを固唾を飲んで黙って見ている。
「…美味しい」
喉をこくん、と動かして口元を押さえながら少し笑顔になって答えた。
お嬢様もなんだか嬉しそう。
「あなたのお店のレシピ見てたら、いつの間にか覚えちゃったりしてね。すごくない?」
「えぇ…困惑しますよ」
そりゃあ、こんな美味かったら。
俺のプライドが音を立てて崩れる。
アイデンティティが崩壊しかけてる。
「ご飯とパンどっちがいい?」
「あ、白米です。俺」
「あなたじゃなくて妹さんが先」
「あたしは、パンが良いです」
「はーい、待っててね」
キッチンに向かったお嬢様はパンをカットしてパン用の籠に入れていく。
未央奈が俺の手を引いてきた。
「あんた負けたね」
「本気出しゃあ勝つから」
「そういうの慢心っていうから。職場の人たちも絵梨花さんの料理選んじゃうかもね」
「いやいやいや、俺をなめてもらっちゃ困る。俺はまだ本気出してな…」
「ご飯はどれくらいにする?」
「あ、普通でお願いしまーす」
こんな暖かい雰囲気で食べる食事が俺にとって一番の幸せであるのかもしれない。
1人よりもみんなで。
料理を美味しいって言い合って食べた方が何倍も美味しく食べれると思う。
笑顔がいつの間にか出来ると思う。
「美味しい」
未央奈を笑顔にしたお嬢様は。
俺よりも何百倍もすごい。
いつの間にか追い越されたかも。
お嬢様は魔法使いみたいだ。