23 日曜日の出来事。
その後も寄り道ばかりして。
自宅に着いたのが3時過ぎ。
待ち合わせは11時だったのに。
バカじゃねえのか。
「ただいまでーす…」
消えそうな声でドアを開ける。
そのまま玄関に座り込む。
「は?弱すぎでしょ。ざっこ」
「よし、じゃあ一度だけ聞く」
「俺は君のなんだ?」
「変態バカ兄貴」
「前2つはいらねえな」
「ほんと細かい。うるさいな」
親父と母さんのどこの要素を引き継いだらこんなのになるんだよ。
真司はまあ良いとしてさ。
どこでどう間違えたらこうなる。
「絵梨花さんは?」
「買い物かな。午後にいつも行くスーパーに行くって言ってたし」
「ふーん。あたしのこと話したの」
「来ることはとっくに話してる」
「あ、寝るとこはさあんたのベッドで良いよね。ベッド以外じゃ寝れないからさ」
「俺はどこで寝ろと?」
「床でいいんじゃね?」
「良くねーよ。大体さ…」
言おうとした時に着信が入る。
画面にはお嬢様の番号。
「はーい、どうしました?」
「妹さんと合流できた?」
「いまさっき、家に着きました」
「ちょうど良かった。買い物したんだけど、結構買っちゃったから持つのを手伝って欲しいんだけど」
「あ、じゃあ今から行きます」
「ありがとう。待ってる」
電話を切ると未央奈の荷物を部屋に運んで、俺の鍵を渡す。
「お嬢様のとこに行って来るわ」
「はいはい」
「冷蔵庫の飲み物、飲んでいい?」
「基本的にはいいけど」
部屋を出てスーパーへ向かう。
ここからそんな遠くないからいい。
前に記憶にあるのは夏の夜に甘いものが食べたいとお嬢様が言ってかき氷作ったんだっけ。
それ以降はあまり行ってない。
けど、なんか懐かしい。
「何買おっかな」
日曜日でバイトも休み。
冷蔵庫の中も空だったから、今日は久しぶりに一人で買い物に来た。
今日の夕飯もまだ決めてない。
お寿司が食べたいけど。
今日は我慢しよう。
「あ、安い」
カットフルーツが半額。
今日の夕飯これでいいかも。
この前食べすぎてしまったから。
あの人の働いてる姿。
いつもと違う姿にドキドキした。
笑顔で、誰にでも対応が良くて。
あたしも見習わなきゃなぁ。
でも、あの人は。
笑顔が何よりも下手だって。
自分でそう言ってたから。
「あとは、えっと」
他のものを探してる時に。
少し遠い場所に見覚えのある姿。
「…幸平さん?」
小走りであたりを見回している。
笑顔になって駆け寄っていく。
買い物袋を両手に持って。
誰かに話しかけている。
隣には、ひとりの女性。
前に食べに来た時。
幸平さんと一緒にいたあの人だ。
こっそり近づいて様子を窺う。
物陰に隠れて二人の様子観察。
「買いすぎじゃないすか」
「いいの。今日、ご馳走作るから」
「やった、手料理食べれる」
「いつも私が作ってるじゃない。あなた、最近の食事当番ずっと私のままでしょ」
「また近いうちに頑張ります」
「てか、冷蔵庫に入れてた俺のチーズケーキ食べたでしょ。せっかく店でもらって家で食べるのを楽しみにしてたのに」
「また今度買えばいいじゃない」
「限定品だったんすよ」
「チーズケーキくらいで怒らない」
すごく親しそうな会話。
会話からして友達以上くらい。
食事当番とか色々話してた。
一緒に暮らしてるみたい。
ああ、そっか。
そうだったんだ。
あたしを傷つけたくないって。
そういうことだったんだ。
何回答えを聞こうとしても。
答えてくれなかったのは。
やっとわかった気がする。
「付き合ってる人、いたんだ」
ふっと全身から力が抜ける。
悲しいはずなのに涙は出ない。
いつもだったら泣いてるのに。
幸せそうなあの人の笑顔を。
見てるだけでもよかった。
最後にもう一回だけ。
あたしの名前を呼んでください。
そうしたら、あたしは。
あなたの名前を呼びますから。
2回目の初恋は遠くに消えてった。