22 妹は兄より強し。
「へぇ、いいじゃん」
「ほら、言っただろうが」
アイスコーヒーを飲みながら焼きたてのアップルパイにフォークを入れるとさくりとした心地よい音が広がる。
「あたしの就職内定、誰にも言ってないのに。なんであんただけ知ってたの」
「帰る前日にずっと書類見てニヤニヤしてたの見たらある程度は察するわ」
「は?ニヤニヤしてないから」
「誰がどう見てもニヤニヤしてた」
勝ち誇った顔でそのまま食べる。
どうだ、兄の目をナメんな。
「幸平くん、どうも」
俺の席に来たのは一人の店員。
初めて来たときから親しくしてる。
「あ、星野さん。こんちは」
店長さんの姪の星野みなみさん。
パティシエの勉強をしながら、ここでバイトをしている自称頑張り屋さん。
別に自称はいらないじゃないかな。
「今日は一人じゃないんだ」
「まあ、色々ありましてね」
「あ、こいつ俺の妹です」
「妹さんなの?妹さんの方が幸平くんよりも何百倍も可愛いって感じかな」
「俺のことを妹の前でサラッとディスるのやめてもらってもいいですか?」
「あはは、ごめんごめん」
「ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」
会話から自然に笑顔も生まれる。
星野さんは初めて会った時もこんな感じでふんわりしてるような感じ。
そして毎回ナチュラルに。
ちょうど良いくらいの毒が出る。
「ふーん」
「な、なんだよ」
未央奈の鋭い視線。
俺の素早さが少し下がる。
「結構親しいんだね。あ、真司から聞いたよ。今年の春くらいに職場の食材の担当してた人と付き合ってたんだって?早く言ってよ」
「え、報告しなきゃダメなやつ?」
「じゃあさ、逆にしないの?」
「あ、あの。ほら、あれだよ。結婚とか諸々を考えるくらいにまで進まないと迂闊に報告もできないからさ」
「あっそ」
そっちから開いといてこれかよ。
マジふざけんな。
休みなのに冷や汗かいたわ。
小百合のこと言ってなかったのに。
情報って怖い。
「夜は焼肉か回らないお寿司ね」
「貯金口座残りいくらだっけ?」
「そんなん知るかよ」
「来週までお世話になります」
ああ、真司。
いや、神様、仏様、閻魔大王様。
この人を誰か止めてください。
たまったもんじゃねえよ。
これはマジなやつで。