21 ふたたび。
気持ちが晴れないまま。
日曜日の朝を迎えてしまう。
待ち合わせした駅の入り口にいた。
結局眠れずそのまま朝になる。
家に帰ってからずっと。
飛鳥のことだけがずっと。
頭の中に残っている。
「いまの幸平さんが好きです」
「昔の幸平さんも、いまを生きてる幸平さんもどっちもあたしは好きです」
飛鳥とは高校からの後輩。
飛鳥のことは少しは知ってる。
ケーキをよく食べること。
幽霊と雷がダメなこと。
強引な性格の人と自分勝手な人間が大嫌いなんだということ。
でも、俺は。
飛鳥じゃなくて、お嬢様を。
お嬢様のことが…
「変態兄貴」
声でハッとする。
いつのまにか目の前には。
未央奈がいた。
「あ、あぁ。久しぶり」
「荷物持ってよ」
スーツケースを押し付けられる。
相変わらずなヤツ。
「でさ、お腹空いたんだけど」
「急にそんなこと言います?」
「あ?」
「なんか近くにあったっけなぁ」
急いでスマホで検索する。
「あ?」が怖すぎだろ。
前よりも怖くなってる気がする。
「アップルパイが食べたい」
「はいはい、分かりました」
だったら、あそこにしよう。
アップルパイが特に美味しい店に。
未央奈が喜べばいいけど。
こいつ文句しか言わないから。
「よし、んじゃこっち」
家とは逆方向を歩き始める。
スーツケースが重いんですけど。
「へぇ、お店知ってるんだ」
「東京で働いて3年目なんだから。そりゃ多少はお店くらい知ってるわ」
「絵梨花さんと来てるんだ」
え、え、絵梨花さん?
そんな呼び方してましたっけ?
「そ、そんな呼び方してたっけ」
「なに?なんか悪い?」
「いや、そうじゃないけど」
「じゃあいいよね」
そういや、お嬢様の名前なんて久しぶりに他人から聞いたかもしれない。
俺自身、名前で呼ぼうと思ってもなかなかタイミングを見出せないままだ。
「もちろんお金はまかせるから」
妹系の漫画とかをたまに見る。
現実を知ってるからこそ。
夢見せないでほしい。
ちゃんとした次元で生きろ、俺。
現実ってのは目の前にあるのが。
知るのに一番いいと思ってる。
そりゃあ、こんなのだから。
嫌になるのもよく分かる。
でも、俺からすれば家族だから。
大事にしたい気持ちの方が勝る。
「真司は何してんの」
「知るか」
やっぱさっきの言葉、キャンセル。