曲がり角を曲がれば。







小説トップ
第5章
17 生まれる矛盾。
翌日の朝、キッチンのテーブルに置いたままの缶ビールを片付けてテーブルに書き置きを残す。
珍しい、寝る前に飲むなんて。
ほとんど家じゃ飲まないのに。


眠ってる彼を起こさないようにしながら、お店にシュークリームを差し入れすることにした。


今日は夕方からだから、時間に近くなったら私から起こすつもり。それまではゆっくり休んで欲しい。


店の裏門のベルを鳴らす。
出たのは彼の上司の新田さん。


「あれ、どうしたんですか」


「ちょっと差し入れでもと思って」


「わざわざありがとうございます」


袋を新田さんに手渡す。
そのまま、新田さんがみんなを呼んで今日の開店組の数人が私の元に集まってくる。


「やった!俺、寝坊して朝飯食ってなかったからこれはありがてぇですよ」


「喜んでもらえて良かったです」


喜んでるあの人はたしか彼と仲が良かった山木さんって人だったかな。


「昨日、お店にクレームがあって大変だったんでしょう。昨日、私に言ってきたんです」


「え、クレーム?あったっけ?」


「昨日は特にはなかったっすよ」


周りがざわざわし始める。
クレームはなかったってこと?
じゃあなんでそんなことを。


「幸平、シフト通り9時で上がってさっさと店出たはずなんですけどねぇ」


「だよな、航」


「はい、あいつすぐ帰りましたから」


クレームがなかったと言う事実。
私のとこに来たのが10時前。
空白の時間が自然と生まれてしまう。


「あ、そういえば…」


「何か心当たりでも?」


「昨日、幸平の後輩、かな。お店に食べに来てたんですよ。もしかしたら、お店を出た後に会ってるかもしれないとか」


「バカ言え。幸平が上がる1時間くらい前に帰ったのに。それはない」


新田さんの言葉を信じたいけど。
もしも、彼が認めたらと思うと。


怖くなってしまう。
またあの日みたいに。
彼が突然いなくなるのが怖い。


「あ。私、帰ります。貴重な開店前にお時間取らせてすみませんでした」


「いえいえ、ありがとうございました。みんなで美味しくいただきます」


会釈しながら店を出る。
まだ1日が始まったばかりなのに、心の中でひっかかってもやもやする。


山木さんが言ってた彼の後輩は前に食べに行ったお店のあの店員さんかな。
彼と楽しそうに話してる彼女の姿が私の頭の中で形成されていく。


私だってそんなの考えたくない。
でも、昨日お店に来たのなら。
疑わざるを得ない。


あーあ、朝からやな感じ。
私には何も隠してないと思ってた。
隠すのが下手な彼だから。
朝からちょっとへこんでる。
彼のことを分かってない気がして。





「あぁ、頭いってェ…」


昨日、なかなか寝付けなくて冷蔵庫の中にあった缶ビールを勢いに任せて流し込んだのが間違いだった。朝から胃が痛い。


「寝酒やめよ。あれ、お嬢様?」


キッチンまで行くと書き置き。
少し出かけてくるから、とだけ。
朝からご苦労様ですよっと。


「朝飯。米炊いてねぇ、食パンも切らしてた。なんもねぇな」


炊飯器と棚を探しても何もない。
むしろあったら逆に怖いけど。
仕方ない、コンビニ行くか。
そう思ってた矢先。


「え、まだ朝だよ」


家のベルが鳴る。
お嬢様が帰って来たのかな。
慌てて玄関に向かう。


「はい、何でしょう…」


ドアを開けると。
俺は悪い夢でも見てるのか。
飛鳥が目の前にいる。


「おはようございます」


これは悪い夢だ。
おれは昨日寝酒したから、寝てる。
そうだ、あれだ。
夢の中じゃちゃんと起きて駅に向かってるけど、実際はぐっすり寝てて遅刻確定するアレだ。何回かやらかしたから覚えてる。


「…あの、あたし。サンドイッチ作って来たんです。良かったら食べてください」


あぁ、良かった。
もうこれで夢で間違いない。
昨日あれだけ傷つけたのに、サンドイッチ作って来ましたって!
もしかしてアレか。アレだよね?
そんな都合良しな展開ねぇよ。
こういう時はほっぺを掴む。
あるいは飛鳥の肩に触れればいい。


「あ、いってえ」


自分のほっぺを掴む。
当たり前だが、すげー痛い。
そうだ。飛鳥はここにいない。
だって、肩触って俺の手がすり抜けたら夢だって確定するじゃん!


「あ…肩があった」


どうやら夢じゃないみたいだ。
現実世界に間違いないらしい。





■筆者メッセージ
過去の作品をこの作品とクロスオーバーとかしてみたいなぁと思いながらなかなかできず仕舞いです。


難しいのは承知なんですが。
やってみたい気持ちはあります。


いつ登場させようかな。
感想お待ちしております。
ガブリュー ( 2018/09/29(土) 00:47 )